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岩手蕎麦紀行 〜そば処 しずく庵〜

『岩手蕎麦紀行』では、岩手県内の蕎麦を紹介すると同時に、備忘録として記していくものである。岩手の蕎麦はわんこ蕎麦だけではない。いや、わんこ蕎麦も良いけど。

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 今回、蕎麦友であるU氏と訪れたお店は、雫石町『道の駅雫石あねっこ』の敷地内にある『元祖雫石そば そば処 しずく庵』。
 まずは、上の写真の青い看板をご覧いただきたい。本来、一番に覚えてもらいたいはずの店名『しずく庵』よりも、全国に数多あるであろう『そば処』の文字の方がでかい。さらに、赤文字ではあるものの、本来このお店の一番の売りである『元祖雫石そば』の文字があまりにも小さすぎるではないか。近くまで寄らないと読めないほどである。
 ここに、店主の人柄が滲み出ていると言っても良いだろう。「名乗るほどのものではございません。蕎麦しか出せませんが、良かったらどうぞお入りくださいませ」という、謙虚ではあるが、蕎麦作りだけはこだわらせていただいているという真っ直ぐで芯の通ったメッセージが込められているのだ。そして、我々客に「蕎麦を食いに来たのだ」と改めて思わせてくれる。
 しかし、そうは言っても店主だって一人間である。入口には『しずく庵』のでかい表札と暖簾の二枚だし。「良かったら覚えて帰ってください」という可愛さもしっかり持ち合わせていることを示してくれている。これによって、我々客は肩肘張らずに安心して入店することができるのだ。

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 注文したのは『天ざるそば(大盛り)』。基本通り。それでは、早速嗜ませていただきます。

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 お蕎麦は手打ちの二八蕎麦(だと思われる)。
 蕎麦つゆに付けずにひと啜り。確かな弾力。ひと噛みひと噛みグングングンとコシの強さを感じる。そして、徐々に訪れる、蕎麦の香り。控えめで上品な香り。これか。僕は先ほどの青い看板を思い出す。控えめだが、誇りの高さが滲み出ていたあの青い看板。まさに、打ち手の人柄がそのまま蕎麦の形をして現れたと言って良いだろう。
 つゆに付け、またひと啜り。つるりとした滑らかな喉ごし。うん。美味い。大盛りだったが、油断すると一瞬で食べきってしまう。ゆっくりじっくり楽しみたい。いや、嗜みたい。しかし、そんな気持ちとは裏腹に箸が止まらない。「せっかちなんだから」という声が聞こえてきそうだ。「せっかちなんだから」は若者のみに許された言葉である。余裕こそが大人なのだ。大人の嗜みとはそういうものなのだ。それなのに。まだまだ蕎麦童貞に毛が生えた程度であることを再認識させられてしまう。

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 一旦、天ぷらへ方向を変える。これまた美味そうな天ぷらである。玉ねぎ、かぼちゃ、椎茸、ちくわ、緑の葉物は春菊だろうか。
 サクサクの熱々。美味い。天ぷらのためのつゆがついてきたので、全てつゆに付けて食したのだが、食し終わってから「塩でも行けば良かった」と思う。大人は「塩」のイメージ。ここでも「せっかちなんだから」という声。
 どれも美味しかったが、特に印象的だったのが椎茸。椎茸の天ぷらはあまり馴染みがない。もしかしたら初めてだったかもしれない。肉厚の椎茸と揚げたての衣の相性は抜群であった。

 あっという間の完食。嗜ませていただきました。
 雫石町の蕎麦屋さんにはほとんど行かせていただいた。その中にあって『元祖雫石そば』の看板。小さい文字であったが、情熱の赤い文字。店主の誇りを感じる蕎麦であった。そしてその看板に違わぬ蕎麦であった。
 炎は赤より青の方が断然熱い。あの青い看板は店主の青い炎だったのかもしれない。


#岩手 #蕎麦 #雫石町 #しずく庵

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