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乳がんサバイバー 第9話 手術の傷から感染して再入院 思いやりとは


胸の下に開いている2つのチューブの穴は赤く腫れている。夜熱が高かったが解熱剤を飲んで下がったので、様子を見ることにした。

翌日、病院で検査。車を降りてから病院入り口まで歩くことが出来ずに車いすで病院に入る。
チューブを抜いた穴を消毒して注射で麻酔をして長めの針を差し込んでの検査。中には菌が入り込んでなかったので再手術は避けられた。

しかし2日後また高熱が出た。39度まで上がり涙が熱湯のように頬を伝った。

こんなに苦しいのははじめてだ。また病院へ行くと、そのまま入院することになった。 点滴から抗生物質を注入しながら2日入院になった。
 
入院までは毎日病院に通っていたのだが、その時の若い医者がとても失礼だった。

「自分が見た限りノーマルだ。赤くなるのも痛いのもノーマルなんだよ、毎日毎日こられてもこっちの時間が大変なんだよ、腕から抗生物質入れたほうが早いから」

という内容のことを非常に嫌な言い方で言った。Every single day(毎日毎日)と3回位言ったかもしれない。夫は怒っていた。

「普通ではないから、こうやって病院に来ているんですよ」

「君の気持ちはわかるよ、でも君は医者じゃないだろう?」あまりにも失礼な言い方に夫は赤くなって激怒している。

患者である私は倒れそうに具合が悪いのに、こういう言い方ができるなんて、医者である前に人間としてもどうなのだろう。
若くて腕がいいと自惚れているのだろうなと思った、医者にとって大事なのは技術だと思うけれど人間性もとても大切だと思う。 

言い方ひとつで楽になったり苦しくなったりする。それは、薬以上の効果だと思う。

放射線科のドクターSはとても優しく、おもしろい。この人がいたから耐えられた。抗がん剤専門医は暗く重い言い方をする人で会うたびにいやな気持になった。


この入院や今回のすべてのことで人間に対する考え方、姿勢などが変わったと思う。

 家族、そして友達の愛情もよくわかった。 見えなかった大切なものがたくさん見えるようになった。そういう意味では癌になって良かったこともあったと思える。

特に夫と息子がどれほど大事かと再確認できた。夫は以前は仕事柄いつも家におらず夫に対して文句ばかり言っていた。癌になりずっと寄り添ってくれる。細かくケアしてくれる。優しい言葉で慰めてくれ、時には叱咤激励もしてくれる。一時期やけになったことがあったが

「僕の結婚した人は強い人だよ、ファイターだよ。きっと戦えるはずだよ」と言ってくれた。
 
食事を作り、息子の世話もし、私の看護もだ。感謝してもしきれない。

そして、息子。
一挙一動に心を奪われる。寂しさと怖さを隠して私の前でおどけてみせる。時々耐えられずに大泣きするけど、涙を拭いて「ママは大丈夫?」と聞く。

8歳の子供はこれほど素晴らしく美しいのかと驚く。以前は何も見ていなかった自分を叱りつけたい気分だった。


――胸や髪の毛を失っても家族の愛は絶対に失えない。


病院の夜はあまりにもうるさくて眠れない。それに1,2時間おきに誰かがやってくる、人の声が響く、キャスターをガラガラと押す音が聞こえる。

午前中もうつらうつらと眠った。

夫と息子が来てくれた。すごく嬉しかったのだが、この病室は特別室なようで、意地悪なナースがやってきた。

「12歳以下の子供が部屋に入るの禁止よ」という。「このサインに書いてあるでしょう!」ときつい言い方をされた。

がっかりして皆で待合室に行く。そこへ違うナースが来てくれた。息子にジュースとゼリーを持ってきてくれた。

「お母さんと一緒に食べたら? 一緒にいたいよねえ」と息子に優しく声をかけてくれる。息子も嬉しくなって自分のバッグを見せたりして、話をしていた。ありがとうと伝えると、

「家族はいっしょにいたいわよね、わかってるわ」とウインクをした。
こういう優しさが心にしみる。 私もこういう人になりたいと思う。 人の気持ちがわかるということは素晴らしいことだと思う。

待合室で皆で病院食を食べた。 まずいミートローフとミックスベジタブルも3人で食べると美味しかった。 

翌日、現在の家である施設へ帰れた。 一気に具合が良くなる。 シャワーをしてすごくすっきりした。 

病院はやはりいやだ。 血圧を図るのに起こされることと、それからこれはきっと日本とは違うのだと思うけれど患者がうるさすぎるのだ。 文句を言ったリ大騒ぎしたり、調子の良い人は話しかけてきて止まらないなど静かな人がいない。

感染して治りかけている箇所が痛痒かったので押すと出血した。 その後この穴から大量に体液の混じった薄い血がでてくる。

ガーゼを何回も何回もとり変えた。

もう入院は嫌だと思った。しかし、この後何回も入院そして手術をすることになるとはこの時は夢にも思わなかった。

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