やさしく起こされた土曜
「今日は学校へいくの」
嬉しそうな声で甥から連絡が届く。わたしの目は、夜更かしのおかげで開かないまま。スマホから聞こえてくる甥の声を聞く。
「友達にも久しぶりに会えるんだよ。授業も30分になったの」
小学校の授業は1コマ45分だけれども、今回の特別措置で当分は30分間を1コマとするらしい。教室で机に座り続けるのを苦手とする甥は、授業の時間が短くなって、本当に嬉しいらしい。
「あ、友達が迎えに来たから、じゃあね。おかあさんと代わるね。ごゆっくりー」
ごゆっくりって、いつ覚えたんだ、その言い回し。思わず吹き出す。そして、妹の声。
「やっと。ようやく。ひとり時間ができたよ!!」
自宅待機が始まったのが3月の半ばころ。今が5月の半ばだから、およそ2か月。妹はおかあさんとして、双子の子どもたち(小学6年生)とリモートワークが始まった夫のいる家の中で、ごはんばかり作っていた気がするらしい。
「やっとできた、ひとり時間。どうすごそうか」
弾んだ声で、あれこれと口にしていく妹。お気に入りのカフェに座りに行こうか、髪を切りに出てみようか。本屋に本を見に行きたいな……
ひとしきり、口にした後で、ぽつんと。
「あ、でも。ようやく子どもが家を出たから、この隙に家のなかを掃除しよう」
結局、いつもの土曜と変わらないね。でも、その「いつもの」という感じが久しぶりだね。
久しぶりだから、あの「いつもの」がとっても大切だと思い出せる。あの「日常」もいつまでもあるわけじゃないんだね。
それを感じた今。なんだか、しあわせだね。
しあわせにやさしく揺られるようにして、夜更かし明けで眠り続けていたわたしの身体も起きた。
そのとき、ふと「青い鳥」が鳥かごの扉を開けて、外に出てきた。ふわっと、羽を広げて空を舞う。そして、羽の先からぱらぱらと輝く粉のような光がこぼれる。光に触れて心があったかくなる……そんな景色が広がった気がした。
閉じかけた目で見ていた景色に焦点が合い始めた。土曜日が始まった。
====
タイトル上の写真はkeikoさんの作品。この写真に添えられていた言葉が素敵でした。
ありがとうございました。見守られてるような感覚になる色合いな写真。