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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『官僚たちの夏』城山三郎著~

「熱い!」「暑い!」。まさに夏の読み物。城山三郎の作品は、他に『価格破壊』しか読んでいないが、同様に全体的なほとばしるエネルギーを感じる。
舞台は1960年代。異色の官僚(風越信吾)を主人公に、高度経済成長を推進した通産官僚たちの姿を描く。「官僚」というと国会答弁を除き、あまり身近に感じないこともあり、彼らの熱さはなかなか想像できない。また諸々の事件から、どちらかというと保身的なイメージが先立ってしまう。もっともこれは自分自身の偏見であり、実際には今日でも天下国家を考えながら、熱い議論を闘わせている方も多いと信じている。
 
この作品は、主人公はじめそれぞれの登場人物に、モデルとなった実在の人物がいるらしい。
主人公・風越信吾はミスター・通産省として「国家の経済政策は政財界の思惑や利害に左右されてはならない」という強い信念を持っていた佐橋滋をイメージしているそうだ。
その他、通産大臣・総理大臣となった「池内信人」は「池田勇人」、同じく「須藤恵作」は「佐藤栄作」がモデルになっている。特に作品上の政治家の名前は、容易に当人を連想できる。そこは作者独特のユーモアといったところか。
実はこの作品、1996年と2009年の2回、すでにテレビドラマ化されているそうだ。
昭和のにおいがプンプンする話である。当時の背景を正しく理解できるのはせいぜい50代後半以降の方ではないだろうか。もっとも「昭和レトロ」が注目されている今日、改めてテレビドラマ化してみるのも面白いかもしれない。
 
ただ昭和真っただ中の話でありながら、作者の今日に向けての問題提起を感じる記載をいくつも見ることができる。作者の先見性を感じるところである。
例えば、風越の片腕であり、後継者と目していた鮎川が官房長の激職で逝去した直前に残した言葉。
「離れること、忘れることの難しさ」。
一方で、経済記者・西丸が風越に語った言葉。
「(余裕をもって働くことを信条とする官僚の)片山ならケガはせん。・・・・・これからはああいう男の世の中になるとちゃうか」
「ケガしても突っ走るような世の中は、もうそろそろ終わりや。通産省そのものがそんなこと許されなくなってきおる」。
「熱さ」「暑さ」と「時代」「ワークライフバランス」。
一見相反するキーワードが、この作品の裏テーマなのかもしれない。

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