見出し画像

ワクワクリベンジ読書のすすめ~『百年と一日』柴崎友香著~

タイトルに興味をおぼえて購入。ショートショートというのだろうか、短編の物語が34編掲載されている。最初は「なんのこっちゃ」と思うような話も、全編通じて読むと「なるほど」と感じる面白い書籍である。解説者(深緑野分氏)のコピーにもあるように、まさに「新感覚」と感じた。
 
ほとんどの展開が、過去の話から始まって十数年の時間の経過が背景にある。
ただ、決して「古き良き時代」を懐かしんでいるわけではない。時代の変化に伴う、街・景色、そして人間そのものの変化について、淡々と描かれている(絵画的要素が強いため、あえて「描く」とあらわす)ところが面白い。
 
作品で話題にのぼる人は、「一日中噴水にいて、知らない女に怒られる男」や「待ち合わせ場所として有名な地下の噴水広場で『好きなことやらなあかんよ』と突然声を掛ける見ず知らずの女」「テレビばかりみていて一念発起した宇宙飛行士」「決して仲が良いわけではないが、あるきっかけから付き合いが深まった『一年一組一番と二組一番』」などなど、普通にはちょっと想像できない一風変わった存在ばかりである。
そうしたキャラクターをよく考えたもんだと思ったが、実は「あるある」なのかもしれない。もしかすると自分の身の回りにもいたりして。そう感じさせてくれる内容だった。
 
さらに言えば、主人公(語り手)が関わってきた人々との関係性。これが実に面白い。
十年以上も連絡が途絶えている中で、突然出会うこともある。また、風のうわさでいまの様子を知ることもある。
そんな偶然、というか案外「あるある」のできごとを改めて認識させてくれる。
 
場所と人間。それが時間の経過とともに大きく変わっていく。しかし、登場人物の記憶の中では時間は止まっている。それを俯瞰しながら、過去とのつながりという視点から現実をとらえなおしている。
著者は、それがいいか悪いかを述べてはいない。それをどう考えるかは読者次第なのだろう。
素朴で絵画的な表現の中に、著者の深い洞察があると思う。
まさに「新感覚」の作品。この点は強く繰り返し伝えたい。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集