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落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『パルムの僧院 上』スタンダール著 大岡昇平訳~

高貴な色男ファブリスに「群がる女たち」と「彼を取り巻く男たちからの嫉妬」。
しかも男たちの嫉妬の背景には、ファブリスに惹かれる女たちへの強い思いがある。
これがこの作品のテーマである。
叔母であるピオトラネーラ伯爵夫人(のちのサンセヴェリーナ公爵夫人)の言葉がこのことをよく言いあらわしている。
(引用はじめ 新潮文庫P49)
「だってあなたの運を開いてくれるのはきっと女ですからね。あなたは男にはいつもきらわれるでしょう」
(引用おわり)
まさにその通り。そもそも兄アスカニオが、ファブリスが叔母の寵愛を一心に受けていることことに嫉妬し、旅券を偽造したファブリスのフランス行きを警察に告発したのが、この物語の発端である。
 
しかし、驚くのは行く先々でファブリスに対する女性のサポートがあることである。
まずはスパイ容疑をかけられ投獄している時の看守の細君。ファブリスの脱獄を手引きし、脱走後も怪しまれないようにと軽騎兵の服を調達してくれる。
さらには従軍酒保の女。馬を調達してくれたり、軍に合流するにあたっての所作をアドバイスするとともに、一度離れた後も馬を盗まれたファブリスをフォローしてくれる。
どちらの女性もファブリスが美形であったことがサポートの誘因となったようである。
 
一方で、ファブリスに愛情を注いでくれる女性への対応は信じられないものがある。
サンセヴェリーナ公爵夫人に対してはその強い思いを感じながら、しかも自分自身も何度も熱い愛情を示しながらも、結局は「友情で愛している」とか「恋に恋していた」としている。
また絶世の美女と言われるファウストに対しても散々アプローチしてその気にさせながら、ついには小間使いのベッチーナの方が好きになり、「今俺が会いたいのはベッチーナのほうだ」とまで考えるようになってしまう。
このファブリスの異常さはなかなか理解できない。
こうした「性癖」が、マリエッタを愛するジレッチに嫉妬心を抱かせることになり、決闘・殺人事件を引き起こしてしまう。ある意味、自業自得なのかもしれない。
上巻ではここまで。下巻ではさらに混とんとした展開があるものと思う。

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