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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『乃木大将と日本人』S・ウォシュバン著~
日露戦争期におけるある米国人従軍記者の記録。特に乃木大将と身近にあり、その姿を中心に書かれた著書である。決して「乃木大将の伝記ではない」としている。が、その生涯は孤独であり、自己を国のために没却させるという厳しさの一方で、優しさ、人間臭さを併せ持った存在としての記載が多い。そこを当時の日本人の特質ととらえられた著書であると感じた。
私自身、乃木大将のことについて多くは知らない。しかしその名声は、わずかながらも記憶の中に残っている。
ある著書には乃木大将の偉大さとして「武士道精神」を持ち出すものもある。個人的にはそこはなかなか理解できない。
ただひとつ言えることは、尊敬すべきは人となりであり、マネジメント力であると思う。言葉を変えて言えば、「思いやり」であり「それを言葉にした時の強い共感力」である。
例えば、日本の連合艦隊がロシアのバルチック艦隊に大勝した記念晩餐会の場で。
(引用はじめ)
「天皇陛下の御稜威によって、我が海軍は大勝を得た。しかし忘れてならぬことは、敵が大不幸をみたことである。我が戦勝を祝すると同時に、又我々は敵軍の苦境に在るのを忘れないようにしたい。それから更に我が軍の戦死者に敬意を表し、敵軍の戦死者に同情を表して、盃を重ねることとしよう」
(引用終わり 講談社学術文庫P57)
また、米英の従軍記者の送別の宴に際し、体調不良で欠席していたところを最後に参加して一言。
(引用はじめ)
「今諸君の我が軍を去られるに当たって、一言呈せずにはいられない。しかし訣別の辞を呈しようとするのではない。願わくばお互いの友情を、永久に黎明の空に消ゆる星の如くにあしらめたい。暁天の星は次第に目には見えなくなる。しかし消えてなくなることはない。我々は諸君に会わず、諸君も我々に逢うことがないにしても、各々何處かに健在して、互いに思いを馳せることだろう」
(引用終わり P89)
著者は乃木大将を「Father Nogi」と呼んだそうだ。また部下から見ても偉大な「Father」だったのだと思う。だから乃木大将の名声は、少なからずも今日まで残っているのだろう。