落ちこぼれシニアのリベンジ読書~『斜陽』太宰治著~
没落貴族の道徳革命。
それが大きく価値観の変わった時代に、貴族が生き抜くためのキーワードだったのだろう。
かず子にとってみれば、上原の子を生み妻に認知させること。そしてその子を自分で育てること。未婚の母であっても、子が私生児であってもいとわない。
貴族というプライドを持ちながらも、力強く生きようとするたくましさを感じる。
一方で、生き抜けなかったのが直治。自分自身は貴族であることに誇りを感じてはいるが、回りの人間(一般庶民)の目を意識するあまり、貴族を、そして自分自身を否定する。自堕落となる。
ただ直治も、かず子同様に道徳革命に身を置くこととなる。「スガちゃん」の存在である。スガちゃんは上原の妻なのだろう。そしておそらくは長女は直治との間の子であるように思う。
直治は最初こそ上原を師と仰いでいたが、家庭を顧みない上原をみるにあたり失望し、それでも上原に尽くそうとする妻(スガちゃん)をいとおしく感じたのだと思う。そしてそれがいつしか、恋に変わり、守ってあげたいという存在となったのだろう。
願わくば、直治にもう少し勇気と強さがあれば・・・・・・。
直治は太宰をダブらせているのだろう。つまりは、太宰自身にも言えることだと思う。
かず子にしろ直治にしろ、結局は「不倫」ということになるか。
ただ、『斜陽』においては「不倫」という言葉は相応しくないように思う。
やはり、かず子のいう「道徳革命」なのだろうか。
一見、身勝手なように思われるが。
それにしても「貴族」とは一体何だったのか。
先祖代々の名家か? 権力者か? 資産家か?
おそらくは、永遠の謎である。