ワクワクリベンジ読書のすすめ~『肉体の悪魔』ラディゲ著~
『肉体の悪魔』か・・・・・・。
タイトルからすると、川上宗薫や宇能鴻一郎の作品であったり、日活ロマンポルノのような思いっきり甘美な内容を想像してしまう。年甲斐もなくなぜかドキドキしてしまった。ただ残念ながら(!?)この作品は、そんなエロ親父(もはやジジイ)の想像から大きくかけ離れたものであった。
ひと言で言えば、「思春期のこころの発達と問題行動」をラディゲの体験(おそらく)をもとに書かれたものと感じた。思春期は周囲の影響、特に人間関係の影響を受けながら一人の大人として自己を確立する時期である。そのタイミングにおいて、異性のからだの変化に関心が向いてしまうのは普通だろう。もっともこの作品の場合は、少年「僕」と19歳の人妻「マルト」の関係が社会性、道徳・倫理という観点からみた時に逸脱してしまっている。ある意味、「肉体」という「悪魔」にこころと行動が支配されてしまったということなのだろう。
嘘と嫉妬。この作品によく出てくるキーワードである。まさに思春期の少年にみる特徴である。
そこにマルトを洗脳する僕のエゴイステックな愛。さらにマルトの夫ジャックをだしにした、僕とマルトの二人のかけ引き。こうした展開にこの作品の面白さがあると感じた。
「わたし、あの人と幸福であるよりは、あんたと不幸な方がましだわ」。
マルトの言葉は極めてベタではあるが、とても意味深なように思う。
結局マルトは産後に肥立ちが悪く(?)亡くなってしまう。マルトは出産を機にジャックと暮らすことになったが本意ではない。生まれてきた子どもに僕の名前をつけて離ればなれになった境遇を少しでも慰めていたのだろう。
そして、何より子どもの名前(=僕の名前)を呼びながら死んでいった。
命を落とす間際まで愛する僕のことを求めていた。そんな不幸な環境でありながらも、そこにマルトの僕に対する愛の形があると感じた。
気の毒なのは、何も知らないジャックである。
脇が甘いのかもしれないな。自分に似ていない子どもをしっかり愛することができたのか。
また子どもの成長とともに、僕はマルトへの愛をダブらせることはなかったのか。
その後どうなったのだろうか。
読了後、そこにエロジジイはいなくなった。真剣に、僕や子ども、そしてジャックのその後を心配してしまった。