ワクワクリベンジ読書のすすめ~『キッチン』吉本ばなな著~
読みやすさと作品の関連性もあり、一気に『キッチン』『満月-キッチン2』と読み進めた。
「キッチン(台所)」がテーマと思いきや、ここでいうキッチンは「母性の象徴」のような印象を受けた。決して恵まれているといえない家庭環境の登場人物。主人公の桜井みかげは両親が若死にし、祖母と暮らす。台所が一番生活しやすい場所になっている。そこに祖母が急死。生前お世話になったということで、祖母の行き付けの花屋でアルバイトしていた田辺雄一の家で、母親のえり子(実は男性;ゲイバーに働く)と3人で暮らすことになる。
一作目の『キッチン』では3人の、奇妙で愉快な生活が中心に描かれている。あまり使われていない田辺家の台所。必然的にみかげが立つことが多くなるが、さまざまなコミュニケーションの場としてコミカルに話は進む。
つまり、ここでは台所は「母親の温かさ」であり「楽しさ」がイメージされる。
そうした環境も、二作目の『満月-キッチン2』では一転。えり子が店の客に殺されてしまう。失意の雄一とみかげ。この頃、みかげは料理研究家のアシスタントになっていた。田辺家とは別に生活していたが、雄一が自暴自棄になるのではないかと心配する。
「唯一の肉親を亡くした空虚な気持ち」。
それが祖母を亡くしているみかげには痛いほど理解できた。そして祖母が亡くなった時に雄一に気にかけてもらったように、今度はみかげが雄一をサポートしようとする。
しかし、この段階で二人は恋人ではない。「心が通い合っている仲間」とでも言おうか。
ただお互いに相手を自分の生活に巻き込みたくないという思いが先立ち、本当の気持ちを心の奥底にしまい込んでいる。
そんな奇妙な関係性を、えり子と同じおかまバーで働くちかちゃんが発展させる。雄一との会話の中からみかげへの愛を確信。みかげにハッパをかける。
「あたし、なんだかピンときちゃったのよ。あんた、あれは愛じゃない?そうよ、絶対に愛よ。(中略)ねえ、みかげ、追っかけってさ、やっちゃえ!」。
その言葉でみかげ自身も自分の気持ちに気がついたか。雄一の泊まる宿まで近くで食べた絶品のカツ丼を届ける。みかげ流のラブレターと感じた。
以後、二人の関係性は深まる・・・・・・。そんな気配を想像させる終わり方であったが、ここではみかげの存在自体が「台所」であり、「母の強さ・優しさ」であると感じた。
軽快さと若干の重さが同居する不思議な作品だった。