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深海生物に恋をして

海の95%は深海で、その深海には陸上生物とは異なる進化を遂げた生き物がいる。

ということを知ったのは、実は数年前。子どもがシーラカンスにハマったことをきっかけに、私は今まで全く関心がなかった「深海の世界」の虜になりました。

気づけば休日は、子どもと一緒に近隣の水族館に出掛けるようになりました。

かつては自らの意思で水族館へ行く経験などなく、付き合いで行っても「ニモみたいだね」という一言をオウムのように繰り返すだけでしたが、今になって、水族館って面白いなと思うようになりました。

ただ、釘付けになる生き物と、そうでない生き物がいます。なぜか私は浅瀬にいる生き物にはあまり興味がわかず、深海の生き物にばかり目が行きます。

どうやら私は、海の生き物全般ではなく、「深海の生き物」が好きなんだということが、水族館に何度か行くうちに分かってきました。

深海魚って、水面からかすかに届く光をキャッチできるよう、目がとても大きい種類がいますよね。さらに深く光が全く届かないところに住む生き物は、逆に目が退化していたり、とてつもない水圧に耐えられるようにゼラチン質だったり…。
陸上生物とは全く異なるその不思議な形状に、惹きつけられるのです。

そういえば、私は昔から「目が飛び出ている生き物」が大好きでした。
例えば、20年前の私の部屋はこちら。

20年前の部屋

セサミストリートの人気キャラクター「エルモ」です。エルモはとても目が飛び出ています。というか、もはや胴体に巨大な目玉がのっている。この不格好さが、何とも愛くるしいのです。

もちろん結婚した時は彼らを一式段ボールに詰め、新居に持ち込みました。

11年前の部屋

広くもない新婚当時のマンションに2人掛けのソファを置き、エルモで埋め尽くすことで図らずも「座れないソファ」にしてしまったところ、夫からは

「いつも背後に大量の視線を感じてとても怖い」

とクレームを受けました。

チーターやシャチのように「スタイリッシュでかっこいい」と言われる生き物とはちょっと違い、「不格好に見える気もするけれど一生懸命」な姿の生き物が、可愛くて仕方ないのです。

話を戻すと、エルモの大きな目を愛でる気持ちが深海生物のそれへと移り、深海生物について調べるうちに、「”世界でここでしか見られない深海魚"が数多く展示されている水族館があるらしい」という情報を手にします。

その名は「アクアマリンふくしま」。

福島県いわき市にある東北最大級の体験型水族館で、神奈川県の自宅からは車で片道4時間半。

この情報を得た私は、真顔で夫に

「ここに行きたいの。日帰りで連れてってくれる?」
「一日は24時間だから、往復9時間運転なら残り15時間もある。余裕でしょ」

ブラック企業もびっくりの激務運転を依頼しましたが、夫から

「きつすぎる。頼むから泊まりがけにしてくれ」

と懇願されたので、数年かけてコツコツ貯めた楽天ポイントを全額楽天トラベルに突っ込み、1泊2日で行くことにしました。(宿泊場所として選んだカオス施設のスパリゾートハワイアンズの記事はこちら。)

初日にハワイアンズで遊びつくしたのちの二日目。とうとう憧れのアクアマリンふくしまに着きました。

図鑑で見た生き物が実際に動いている姿に興奮しっぱなしで、「こんなにも美しく不思議な生き物が、海の中に確かに存在している」ことを全身で感じ、胸がいっぱいになりました。

また、アクアマリンふくしまは研究施設ということもあり、展示生物を商業的な見せ物ではなく、研究対象としてリスペクトしている雰囲気が至るところに感じられて、その姿勢がまた素敵だなと感じました。

以下は、特に私が出会えてうれしかった生き物たちをご紹介します。

<シーラカンス>

子どもが深海生物にハマったきっかけでもあるシーラカンスは、私を深海生物の世界へ誘ってくれた恩魚です。この施設には世界で唯一、二大陸で見つかったシーラカンスのはく製を見比べられる場所があります。シーラカンスを見つけるのがどれだけ大変だったかは本で読んで知っていたので、「やっと会えたね…」という感動でいっぱいでした。

<オオグチボヤ>

「人間が想像する宇宙人」のような生き物がマジでいるのか、と一番衝撃を受けた生き物です。図鑑で知った時も半信半疑でしたが、目の前でオオグチボヤが本当に動いている姿を見たときは、「私が見えている世界なんて本当に狭い…」と感じずにいられませんでした。

<タマコンニャクウオ>

図鑑で一目ぼれしたイチオシ深海魚です。このプニプニの体とぱっちりした目、そして美しい薄桃色。思わず水槽にへばりつき、孫に目を細めるおばあちゃんのように「可愛いねえ可愛いねえ」とつぶやき続けました。

憧れの生き物たちを一通り観察すると、おなかが空いてきたので、施設内のカフェテリアに向かいました。そのメニューがまた、大変素敵でした。

例えば、「コガネガレイ唐揚げ」

ただのカレイではなく、正式な魚種が明記されていて楽しい

メニューの説明欄に「分布」という文字を見るのは、人生で初めてでした。

それから「ネコザメエッグポテト」

お祭りでよく見るポテトだけど、ネーミングの発想に驚嘆

「ネコザメの卵のようなドリル状のフライドポテト」とあり、「ネコザメの卵のような」ってどういうこと?と一瞬混乱しましたが、横に実物の写真がちゃんと添えてありました。
もうこれ、メニューじゃない。図鑑だよ。

あとは、「ヘミングウェイのメカジキメンチ」

なんでいきなりヘミングウェイ?あ、そうか、老人が海で戦ったのはカジキだったっけ…という教養を試されるメニューまでありました。

こうして展示から食事まですっかり楽しみ尽くし、今回の旅は大満足に終わりました。

最後に、なぜ私がこのnoteを書いたのか。
それは、私がどうしても解けない謎を、誰かに解いていただきたいと思ったからです。

その謎は、「なぜゼラチン状の深海魚が展示水槽の中で生きられるのか」です。

例えば、2013年に英国で「世界一醜い生き物」という不名誉な認定を受けた「ニュウドウカジカ」という深海生物がいます。ニュウドウカジカは全身がゼラチン質でできているので、地上にあげるとブヨブヨになって死んでしまうのだとか。

ひどい話ですよね、深海で静かに生きていただけなのに勝手に人間に地上に引き上げられ、その上勝手に「世界一醜い生き物」と言われるなんて。

私がニュウドウカジカなら、人間たちに一言モノ申したいです。

「ゼラチン質の深海生物を地上にあげるとブヨブヨになる」と学んだ私は、前述した「タマコンニャクウオ」が、なぜアクアマリンふくしまの水槽でゆうゆうと泳いでいられるのか、不思議でなりませんでした。(現地でスタッフさんに聞けばよかった!)

弊社の生き物好きメンバーであるよっしーにこの疑問を共有したところ、彼の推理では「特殊な装置で深海と同じ圧力をかけたまま捕獲して地上で徐々に減圧する、もしくはゆっくり時間を掛けて引き上げることで、減圧症を回避しているのでは」とのことでした。

なるほど…。
「減圧」という専門用語がかっこよくて説得力があったので、とりあえず納得した気になりましたが、本当にこれが正しいのかは全く分かりません。

詳しい方がいらっしゃったら、ぜひ教えてください!

【2025年2月14日追記】

もしかしてだけど、疑問が解決したかもしれない…。
探究学舎という子ども向けの「勉強を教えない塾」で今日深海の話があり、「赤ちゃんのときに海面近辺で過ごす深海魚を幼魚の時点で捕獲し、成長するまで水族館で育てる」方法があるらしい。

そういえば、アクアマリンふくしまで楽しんだ企画展「旅する深海魚」では、幼魚の間を浅い海で過ごし、成長とともに深海へ移動する深海魚や、エサを食べるために浅海まで移動する深海魚がいるとあった。

もしかして、もしかして…
アクアマリンふくしまにいた深海魚たちは、幼魚の時点で捕獲orエサを食べるために浅海まできた深海魚を捕獲して展示している…とか…!?
私はいま、深海魚研究第一人者の自意識で非常に興奮しています。