保育園行事中に推し番組のリスナーを探した話
明日は保育園の行事、親子遠足。
私はタンスの前で、服装について悩みに悩んでいました。
服装と言っても、VERYママ的おしゃれコーディネートとか、親子競技で俊敏に動けるスポーティーな装いとか、「ファッション」について悩んでいたわけではありません。
私が悩んでいたのは、
どのTシャツ(グッズ)を着ていけば、好きなポッドキャスト番組のリスナーに会えるか。
これは、保育園行事を使って推し番組のリスナーを探そうとした、私の汗と涙の記録です。
■「台所に立つしんどい時間」を癒してくれる存在
ポッドキャストって何?という方に説明すると、ポッドキャストとは、インターネットを通じて配信される音声番組のことです。
もともとポッドキャストはおろか、ラジオを聴く習慣もなかった私ですが、ある日、知人から『ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN』という番組を紹介されました。
聴いてみると、おばさま二人が雑談しているだけでしたが、これがめちゃくちゃ面白い。
その後、アプリのおすすめに出てきたのが『ゲイと女の5点ラジオ』という番組。こちらも番組名のとおりゲイと女の二人が雑談しているだけなのに、やっぱりめちゃくちゃ面白い。
この二番組との出会いによって、私の家事の時間は激変しました。
私は家事の中でも、特に料理が苦手です。
新婚当時は、休日に早起きして愛する夫のためせっせとパンを焼いたり、栄養バランスを意識した食事に挑戦したりもしましたが、あれから十年。
一汁三菜、これ、何かの呪文?って感じです。
直近の献立やスーパーの品揃えなどを考えながら、日々臨機応変にこなさなければならない料理は、決められたことをコツコツ進めていくのが好きな私にとって、苦痛以外の何物でもなかったのです。
そんな辛い時間を癒してくれたのが、ポッドキャストでした。番組を聴きながら料理をしているだけで、ご機嫌に過ごせるようになりました。
また、ポッドキャストのパーソナリティがラジオ番組を持っていることも多く、気づくと一日中ラジオやポッドキャストを聴くようになっていました。
■サイレントリスナーがサイレントじゃなくなった瞬間
基本的にサイレントリスナーとしてひっそり楽しんでいた私ですが、ある日ラジオ番組にお便りを投稿してみたら、あっさり採用してもらえました。
自分が書いたお便りを憧れのパーソナリティーが読み、コメントまでしてくれる。
別世界だと思っていたパーソナリティーとのつながりを感じ、この絶妙な距離感にノックアウトされました。
それ以降、私は"はがき職人"よろしく各種番組に高頻度で投稿するようになり、採用の証として送られてくるステッカーをもらっては大はしゃぎ。さらになけなしのお小遣いを番組のファンクラブに課金し、番組公式Tシャツを着てイベントに参加する日々。
ああ、なんて楽しい。
でも、この楽しさを分かち合える人がいたら、もっともっと楽しいのに。
いつしか、「リスナー友達が欲しいな」と思うようになりました。
■X上での交流と、人生初のウィキペディア執筆
令和の時代ですから、共通の趣味でお友達を作るなら、インターネットの力を借りるのがてっとり早い。
私は、恐る恐るX(旧Twitter)のアカウントを作りました。
友人から「Xは、noteやインスタよりも治安が悪いから気を付けて」と聞いていたとおり、目に入るタイムラインには「ひいいいっ、怖っ!」となることが多いですが、推し番組のリスナーさんは、皆とにかく優しかった。
「今回の配信も面白かったですね」
「特にあの返し、最高でしたね」
「わかる~。そういえば、今度のイベント行きます?」
こんなやり取りをするようになり、X上でラジオ番組のリアタイ実況をする(リアルタイム実況の略。ラジオの放送時間に合わせてXに感想を投稿すること)ようになり、ついには、見知らぬ人と推し番組のウィキペディアを書くまでになりました。
皆さん、一度はウィキペディアを見たことありますよね。
当たり前ですけど、あれって、書いている人がいるから見られるんですよ。
私はウィキペディアを「作る側の人間」になったんです。
私のインターネットリテラシーはWindows95で止まっているため、かつては「インターネットで知り合う人=犯罪者」くらいの偏見を持っていましたが、そんな私が年齢も性別も住んでいる地域もよくわからない人と、仲良くウィキペディアを書いているのです。
いつかウィキペディア執筆が完了したら、皆さんにもぜひ共有したい。
インターネット上にも、こんな平和な世界があるんです。
■現実世界での同士を求めて
X上での交流が楽しくなればなるほど、ある思いが私の中で膨らんでいきました。
なんでこんなに面白い番組なのに、周りに聴いている人が誰もいないの?
「あえて公言していないだけだろう」と思い、人が集まる機会があれば番組Tシャツを着ていくのですが、誰からも反応がありません。
毎週一緒にリアタイ実況している仲間に対し、「あなたたち、本当に存在してる?」と疑心暗鬼になるくらいです。
そんな私に、絶好の機会がやってきました。
やっと冒頭の話に戻りますが、保育園の行事、親子遠足です。
遠足前夜に私が悩んでいたのは、推し番組の『OVER THE SUN』と、最推し番組の『5点ラジオ』、どちらのTシャツを着ていくか。
いや、ふつーに一番好きな『5点ラジオ』にすればいいじゃん、と思うかもしれませんが、『OVER THE SUN』のほうが、リスナー数が圧倒的に多いんです。
悩みに悩んだ挙句、『OVER THE SUN』のTシャツを着ることにしました。
そして私はこの決断を、大いに後悔することとなるのです。
■遠足当日。子どもそっちのけでリスナー探し
青空の中始まった、親子遠足。
子どもたちの成長を見守る機会のはずが、私の熱い視線の先は子どもたちではなく、保護者の皆さんです。
「親子競技で目立てば、Tシャツに気づく人がいるかもしれない」
と考え、親子で競う「しっぽとり競争」にガチ参加することにしました。
しっぽとり競争とは鬼ごっこの変わり種のようなもので、子どもたちが鬼となりズボンに紐をつけ、大人がその紐を取ったら勝ちというゲームです。
開始の合図とともに本気で子どもたちを捕まえに行きますが、子どものしっぽの位置が大人からだと低く、かつ子どもたちの逃げ足が速すぎて、全然捕まえられません。
息も絶え絶え、ついに子どものしっぽをとったときは「っしゃぁぁぁ!」と大声を出してしまい、周囲をドン引きさせた感は否めませんが、爪痕は残せたはずです。
しかし、Tシャツに対する反応が、ない。
その後の懇親会タイムでも、お弁当タイムでも、誰からも声をかけられませんでした。
ついにお開きの時間が迫り、「だめだったか…」と肩を落としながら、帰る準備をしていました。
そして、その時。
歴史が動いたのです。
■リスナーとの感動の出会い
同じクラスのお父さん(Nさん)が声をかけてきました。
「ナミキさん、あれ?そのTシャツ…」
「えええええええ気づいてくれましたかそうですそうなんですよOVER THE SUN!もしかしてNさんもリスナーなんですか!そうですかおめでとうございますありがとうございます!」
相手の発言をほぼガン無視で、一方的にマシンガントークを浴びせました。
ついに、推し番組のリスナーに出会うことができたのです。
Nさんは「このTシャツ、ほんとに着てる人いるんだ」と爆笑していましたが、私は感動で涙目状態。
さらに欲が出てきた私は「他にも好きなポッドキャストありますか?」と質問しました。
もしかして『5点ラジオ』も聴いているかも…という一縷の望みを託して。
しかし残念なことに、「いや~やっぱラジオがメインですね。そういえばあの番組も」とラジオの話に。
私も好きで聴いているラジオ番組名がたくさん出てきて嬉しかったのですが、さすがに『5点ラジオ』の名前は出てきませんでした。
ちょっと残念、と思いつつ、それでも十分すぎるくらい幸せな一日でした。夫と子どもに対して今日の奇跡を一方的に語っていると、帰り道が同じNさん一家と一緒に歩くことに。
すると、Nさんが思い出したかのように
「あ、そういえばポッドキャスト、あれもよく聴いてましたよ!ゲイとおんn」
あwせdrftgyふじこlpあwせdrftgyふじこlpあwせdrftgyふじこlpあwせdrftgyふじこlpあwせdrftgyふじこlpあwせdrftgyふじこlp!!!!!?????????
自分でも驚くくらい、声にならない声をあげました。
なんとNさんは、私の最推しの番組、『ゲイと女の5点ラジオ』の名前を口にしたのです。
しかもNさんは、5点ラジオの限定グッズを買うガチファンだったと判明。
もう、泣きました。嬉しすぎて。
帰宅後、ネット砂漠のオアシスであるXの仲間たちに報告したところ、お祭り騒ぎになりました。
よくやった!という声や、羨ましい!といった声を続々ともらい、その日の夜は、興奮で目がぎらついてなかなか寝られませんでした。
私は、『5点ラジオ』と『OVER THE SUN』のリスナーがいるこの保育園を、心から誇りに思います。
私の保活は間違っていなかった。
■懺悔
ただ、ひとつだけ、自分で自分を許せないことがあります。
それは、自分がひよったことです。
Nさんは、自分から『5点ラジオ』のファンだと打ち明けてくれたのに。
それなのに私ったら、マンモス番組である『OVER THE SUN』を傘に、こっそり『5点ラジオ』のリスナーを探そうとするなんて。
自分の卑しさや浅ましさに直面し、「自分は本当に『5点ラジオ』を推すにふさわしい人間なのか」と猛省しました。
これからは、もう迷わない。
強い気持ちを持ち、最推しのTシャツを着ていきます。どこへでも。