一生かけてもこえられない師がいるから
昨年末、ミラノの師匠グイド・デ・ザンが、イタリアの出版社コッライーニから作品集「UN' IDEA DI LEGGEREZZA」を上梓した。彼は、これまでに数冊の本をだしているが、このように立派な本は初めて。
工房40周年を記念したもので、バイオグラフィから作品についてのテキスト(伊語/英語)の内容はすべて彼の偉大なる経験の賜物だ。ブルーノ・ムナーリの本を多数あつかう大好きな出版社ということで、喜びはひとしお。とにかく良書。
同じ陶芸家でも、いやモノをつくる人だれでも、勝負!とか悔しい!と思ったことがない。きっとこれからもきっと、そういう気持ちはわかないだろう。なぜならば、わたしにはおそらく一生かけてもこえられない師がいるから。
弟子を退いたあのとき、師匠は「10年、自分のちからで続けられたら帰っておいで」と言った。そのとおりイタリアはもちろんヨーロッパにはつま先さえ踏み入れなかった。
その言葉を小さくちぎって、あちこちのポケットにお守りのように持ち歩いた。まちがえて洗濯機で洗ってしまっても、切れ端は残っていた。
そして、すっかりデジタルの時代になったころ、お守りの紙片をポケットに入れたまま「ミニ土鍋」を持って師匠に会いに行った。10年と少し越えていたから、胸をはって会いに行った。作品に対しての評価なんてこわくなかった。もはや、そういうことではなかった。なんといわれても、お守りがぼろぼろになっても、続けられたしあわせでいっぱいだった。師匠は作品を大事に手につつみながら「もうキミは弟子ではないよ、れっきとした陶芸家だよ」と言われたけれど、師匠が手に持った土鍋は小さく見えた。まだまだ超えていないよと、小さくホッとした。
わたしには、こえられない師がいる。
上写真:L'ex allieva Tamamia Azuma(前の弟子)と名前を載せてくれ(前の弟子であり、今は違うよと彼は毎度リスペクトしてくれているのだ)、さらにうれしいのは…。
下写真:donabe(土鍋)を提案しているとも書いてくれ、土鍋の説明まで書いてくれた。
最後に、おまけの映像。
40周年記念の贈り物として、ボローニャに住む友人アーティスト Chizu Kobayashiに「40」を形にしてもらった。同時に「コッチョリーノ」もつくってもらったので、師匠に協力してもらい、何回か練習なんかしちゃって記念動画を残した。師の工房は「COCCIO」わたしの工房は小さいを意味する「RINO」がついて「COCCIORINO(コッチョリーノ)」。
こえられない師がいることに誇りと感謝を。
【 ⇒EVENT INFORMATION@PICCOLO TEATRO DI MILANO】
Guido De Zan. Un’idea di leggerezza è il titolo del libro – edito da Corraini – dedicato ai quarant'anni di attività del ceramista Guido De Zan.
Alla presentazione intervengono, con l'artista, Anty Pansera, critico e storico del design, Eugenio Alberti Schatz, curatore del volume, Alberto Cavalli, direttore generale Fondazione Cologni dei Mestieri d’Arte, Flaminio Gualdoni,
critico d’arte.