美術館巡りの備忘録 vol.2
美術展を訪れるたびに書きとどめていた短文を再び集めました。
2021年1月から 2023年9月までに訪れた展覧会を紹介します。
☆「クールベと海-フランス近代 自然へのまなざし」
(2020年12月19日~2021年2月21日 ふくやま美術館)
先日来の、海が見たい欲求を満たしに目指したのは瀬戸内海でもなく、太平洋でもなく、日本海でもなく...…フランス北部、ノルマンディーの海。
クールベの描く暗くて深い色をした海に立つ波は、砕ける波頭が今まさにこちらに向かってしぶきをあげそうな迫力。穏やかな瀬戸内海を見て育った私に、海は青く波は力強いものだと気づかせてくれます。
クールベの海との出会いは高校生のとき、岡山県倉敷市の大原美術館でのことでした。
☆お菓子でできた 夏の思い出と金魚展
(2022年8月17日~8月28日 岡山・吉兆庵美術館)
さすがに35℃を超える暑さは鳴りを潜めたものの、残暑お見舞いを申し上げたくなる日が時おりやってくる8月最後の週末。
岡山・吉兆庵美術館の夏休み企画展に行きました。ひまわりに朝顔、カワセミ、カブトムシ、金魚などなど。すべて和菓子でできています。材料は主に米粉と白餡と砂糖だそう。
☆佐伯祐三 自画像としての風景
(2023年4月15日 ~6月25日 大阪中之島美術館)
道修町(どしょうまち)にある少彦名(すくなひこな)神社をお詣りしたのち、西へ西へと歩いて国立国際美術館を目指す。お目当ては「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」だったはずが、美術館目前の小さな交差点で信号を待っていたら、正面に「佐伯祐三 自画像としての風景」という看板が目に入る。国立国際美術館の隣にある大阪中之島美術館で佐伯祐三の特別展が開催中のよう。
佐伯祐三は学生時代からずっと大好な画家。悲鳴や焦りがにじむような筆致に心を沿わせると、自分の気持ちがスーンと鎮まるようで心地よい。
さて、どちらに行くか。
束の間迷ったけれど、短い横断歩道を渡り切る頃には心が決まっていました。佐伯祐三を観る。
この展覧会がなかなかの規模。歩いても歩いても、まだまだ次の展示室がある。140点余りが展示されていたらしい。その数を一堂に集めたことにも驚くけれど、30歳で早逝した画家が描いた圧倒の作品数に改めて驚く。
☆NAGARE STUDIO 流政之美術館
(2023年5月訪 香川県高松市庵治(あじ)町)
彫刻家・流政之の住居でもあり作業場でもありゲストハウスでもあった、この場所が2019年より美術館として公開されています。見学は予約必須のツアー形式。
予約をして友人を案内したのは二度目ながら、前回も今回も天気に恵まれず雨。晴れていたら海を背景にした作品がどんな風に映えているのだろうと想像しながら庭にある作品を観覧。続いて館内に案内され、作品はもとより流政之の流儀が詰まった建物と内装を観覧。自分では持ち得ない感性に思いを馳せてはため息をつく。
この立地は高級石材として知られる庵治石(あじいし)の産地であるがゆえに、同じ半島の反対側には世界的な彫刻家・イサムノグチも住居とアトリエを構えていたことがあります。その場所もイサムノグチ庭園美術館として公開されており、同じくツアー形式で予約が必要です。
☆お待たせ!こんぴらさんの若冲展
(2023年 4月8日~ 6月11日 金刀比羅宮書院)
航海の神様として参拝者を集める「こんぴらさん」こと金刀比羅宮(ことひらぐう)があるのは香川県仲多度郡琴平町(なかたどぐん ことひらちょう)。
そのこんぴらさんの、普段は公開されていない奥書院の部屋を飾る障壁画がこのたび修復を終えて特別公開されました。修復された伊藤若冲のふすま絵がメインに据えられている特別公開だけど、ほかの部屋のふすま絵もなんとも贅沢で美しい。
再び公開される機会があればぜひ訪れたいとは思うけれど、久しぶりに登った石段が思いの外しんどくて、今日が人生最後のこんぴら詣でかも……と弱気になったのも事実です。
☆濱野年宏 伝統と現代のハーモニー
聖徳太子絵伝四季図大屛風(中宮寺蔵)と新作
(2023年9月12日〜10月14日 丸紅ギャラリー)
会場を訪れる来客をまず出迎えるのは、聖徳太子の一生を描いた大きな屏風。
中宮寺(奈良県)所蔵の春夏秋冬の四隻のうち、春と夏の部が展示されていました。タイムラインではなく季節で場面を抽出した作品は、太子の一生への造詣もさることながら、背景に描かれた緻密な文様と季節の花が目を引きます。透明感を帯びた花弁はほのかに光を放つようで、バックライトがあるのではと後ろを覗きこみたくなる。
でも私が釘付けになったのは桂離宮を描いた最近の作品群。迷いのない線が縦に横にいさぎよい。胸の内にモヤモヤする何かがすぅと下がっていく気がします。無駄のない画面は迷いを持ち去ってくれるよう。短い期間に、これでもかこれでもかと描き出されたスピード感も心地よい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?