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【感想文】杯/森鴎外

『耳よりな話を聞いたよ。』

アホの坂田に「アホ」と言ったら怒られるらしい。

そんな話を大阪出身の友人から聞いた。
ではどうして、アホの坂田にアホと言うと彼は怒るのか。まあそれは当事者不在により真相不明だが、考えられる理由を以下に列挙する。

▼坂田が怒る理由:

①赤の他人にアホと言われる筋合いは無いから怒った。
②坂田はアホではなく賢いため訂正の意を込めて怒った。
③坂田はアホの自覚があり、自身の性質が見透かされた屈辱感から怒った。
④アホの坂田といえど、それは「設定上のアホ」なので、それを真に受けた素人に呆れて怒った。
⑤坂田=アホとは、メディアを通じて世間が一方的にくだした評価であり、そのため坂田自身は納得してないから怒った。
⑥坂田だと思ったら人違いだったため、人違いされたその人は普通に怒った。

上記①~⑥の理由を見てまず思ったのは「全部正解っぽいなあ」であり、そのため考察は難航を極めたが、そんなときに読んだのが本書『さかずき』である。

▼結論:

本書の終盤、フランス人と思しき一人の少女が、彼女を小馬鹿にしてきた日本人の少女数名に対し「私の杯は大きくないけど自分のやつで飲むよ」的な事をフランス語で伝えると、それを聞いた日本人の少女達は言語を解さないにも関わらずビビってしまう。その理由は <<娘の意志を表白して、誤解すべき余地を留めない>> からであろう、つまり、フランス少女の態度は切実そのものだからであり、これがなんとそのままアホの坂田に適用できる。坂田が怒る理由、それはズバリ「⑤ 坂田=アホとは、世間が一方的にくだした評価であり、そのため坂田自身は納得してないから怒った。」が最も適切かと思われる。フランス少女は十四~五歳にしてその所作も終始落ち着き払っており、さらに、「熔巌ようがんめたような色をした杯」を持っていることからして、そのセンスも激シブである。おそらくこのフランス少女は若くして自己を確立できている。だから <<誤解すべき余地を留めない>> のであって、これは決してプライドが高いのではなく分別を獲得している証であろう。で、これはアホの坂田も然り。坂田利夫は御年八十一歳である。自己を確立できてない訳がない。いかに世間が「アホ」という評価をくだそうとも、坂田は坂田であり続けるためアホではない意志を持っているのであろう。そのため、坂田だけでなくフランス少女も自分のために、自己の意思表示のために怒ったのである。そうに決まってる。したがって、⑤が適切である。

といったことを考えながら、『怒りの葡萄(下巻)』の感想文はちゃんとやるんで今回はどうかこれでお願いします。

以上

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