【感想文】のんきな患者/梶井基次郎
『悶絶!吉田地獄』
拙、黒霧島岩頂き爾後酩酊候得者、本書考察悉皆放逸の塩梅にて駄文相成候故、御憫笑可被成下候。
▼本書の特徴/問題点:
本書『のんきな患者』において注目すべきは、<<吉田>> という文言の多さである。文庫版総ページ数は25ページと短編でありながら、文言「吉田」の件数は合計208件にのぼり、1ページ当たり平均約8.5件の頻度で登場している。その例として、以下の引用をご覧頂きたい。
◎文言「吉田」の多用例:
<<吉田の母親はそれを見つけて硝子障子のところへ出て行きながら、そんな独言のような吉田に聞かすようなことを言うのだったが、癇癪を起こすのに慣れ続けた吉田は、「勝手にしろ」というような気持でわざと黙り続けているのだった。しかし吉田がそう思って黙っているというのは吉田にしてみれば ― 以下略 ― >>
この通り、蓋し吉田過多である。なお、著者の他作品を点検したが本ケースの様な傾向は見られなかった。
▼吉田の割合:
続いて、合計208件の「吉田」の内、「『吉田』に続く助詞の登場回数」を以下に示す。
◎吉田の内訳:
・第1位:吉田は・・・106回
・第2位:吉田の・・・ 42回
・第3位:吉田に・・・ 28回
・第4位:吉田が・・・ 25回
・第5位:吉田も・・・ 3回
・第6位:吉田を・・・ 3回
・第7位:吉田や・・・ 1回
上記の内、第1位「吉田は」は全体の約50%を占める。係助詞「は」は主に、文章の主題・テーマを表すことから、「吉田は」は、吉田に関する情報・解説といえる。次に、第2位「吉田の」は全体の約20%を占め、格助詞「の」は、連体修飾を主な目的として用いられるため「吉田の」は、吉田と吉田以外との関係を表している。また、「は」および「の」は全体の70%を占め、さらに三人称小説という特徴も踏まえると、本書は過剰な吉田観察記・行動録である。とすれば、著者梶井基次郎の意図は一体何か。
▼著者の意図:
我が能力不足により適切な意図を見出せなかった。が、強いて挙げるとすれば『ワレ、ナンボほど “吉田” ゆうとんねん!』といった感じで、読者の関心を吉田にひたすら集中させる効果を狙ったのかもしれないが、その真偽や如何。
といったことを考えながら、世の文学研究者諸氏におかれては引き続き本問題に取り組む価値はある様に思う。
以上
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