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【感想文】華氏451度/レイ・ブラッドベリ

『メナンドロスの断片』

古代ギリシャ人のソフォクレス、エウリピデス、アリストテレスらは多くの著作を残したそうだが、彼らの大半の作品は歴史過程において散逸してしまったため、そうした幻の著作は「断片(※1)」という形でしか読むことができない(一方でプラトン、クセノフォンの著作はその全てが奇跡的に現存している)。
 ※1…パピルスの切れ端 。他者の著作における引用・言及。
前述同様に、知る人ぞ知る古代ギリシャの喜劇作家「メナンドロス」は、その全ての作品が完全な形で残っておらず、現存するのは欠損の激しい著作あるいは断片のみである。それではここで、貴重な、貴重な、貴重な、メナンドロスの断片を以下にお伝えする。

▼断片.681:
῾Ο μὲν λόγος σου, παῖ, κατ' ὀρθὸν εὐδρομεῖ, τὸ δ' ἔργον ἄλλην οἶμον ἐκπορεύεται.お前の言葉は、息子よ、真っ直ぐに走ってはいるが行為は道を外れているな。

▼断片.682:
῾Ο μὴ φρονῶν μέν, πολλὰ δ' ἐφ' ἑκάστου λαλῶν, δείκνυσιν αὐτοῖς τὸν τρόπον τοῖς ῥήμασι.思慮がないのに事ある毎に口出しをする者はその発言によって生き方を示す。

上記2点の断片が劇中のどこの文脈でどういう意図で用いられたのか、そして劇において成功したのか、それは依然として不明のままである。ではどうして私が長々とこんな事を書いたのかというと、本書『華氏451度』を読んだからであり、とりわけ本書終盤においてグレンジャーがモンターグに語った、

本を一語一語、口伝えで子どもたちに伝えて行くんだ。そして子どもたちも待ち続けながら、ほかの人間に伝えていく。─中略─ そういう連中(※私注: 支配者および被支配者)も、いずれは、なにが起きたのか、なぜ世界は足もとで爆発してしまったのか疑問に思って、考えを変えるときが来る

ハヤカワ文庫,P.255

という真摯な言葉に感化された結果、早速私はメナンドロスの断片が失われないよう、原文も合わせて感想文に残しておいたのである。とはいえ、本書のように極端な書物禁制の時代が来るかどうかは知らぬが、既に現代社会においても思考抑圧、情報操作に繋がるおそれのある技術や媒体は少なからず存在する。で、それは脅威になり得る。では何が脅威なのかというと、モンターグの妻ミルドレッドの生活に象徴された、飼いならされた犬も同然、己の人生を訳の分からぬままに終えるのが脅威だと言いたい。だから本書はやけに現実に迫る内容なのだと言いたい。

といったことを考えながら、この感想文で私が最も言いたいのは「俺はメナンドロスとかも知っている」と言いたい。

以上

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