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こんな学校があったらいいな 〜6年2組としのぶ先生〜
6時間目の開始のチャイムと同時に、しのぶ先生がチョークで文字を書きだした。
【こんな学校があったらいいな】
「今日は【こんな学校があったらいいな】というテーマでみんなと学校について考えていきたいと思います。」
この言葉を聞くと、すぐにケンジが、
「俺はチョコレートがいつでも食べられる学校がいい。」
と言い出しました。するとすぐにノゾミからは、
「私はいつでも昼寝ができる学校がいいな。」
「僕は6時間目までずっと体育の学校がいい。」とタケルも続きました。
それを聞いたアラタが
「そんなの学校じゃないよ!」と叫びました。
「これが学校じゃないなら学校ってどんなところだよ?」とタケルが聞き返しました。
するとアラタは、「勉強するところだろ。」と強めに言い放ちました。
「私は仲のいい友達といられるところかな。」
「俺は給食を食べられるところ」
教室の中では色んな意見が飛び交います。
思わず、アラタが「えっみんなそんなに違うの?」と漏らしました。
「みんなの頭の中の学校って違うんだな。」とソウが言うと、サクラが続けて言います。「そりゃそうだよね。一人一人やってることも好きなものや大切にしているものが違うもんね。 」
そんな話をしているとアキが静かに手を挙げました。
「アキさん、何かありましたか?」
「こんなに一人一人違うならさ、学校ってなんのためにあるの?」
静寂が教室に広がります。
この言葉でみんなの頭の中はぐるぐるし始めました。
だけど、しのぶ先生は何も答えてくれませんでした。
静かな教室。そんな静寂の中、アユミが切り出します。
「私にとっては、学校って色んなことをしていく中で、できないことができるようになったら、知らないことを知ったりするための場所だと思うんだよね。1年生の時の私より、今の私の方がたくさんできること増えたと思うんだよね。」
「わかるな~」カエデが口を開きました。
「なんか、ふと思ったんだけどさ。去年運動会で6年生を見てさ、あんなカッコよくできないと思っていたんだけど、俺たちなんだかんだやりきったじゃん。これってすごいことだと思うんだよね。たぶん学校で俺たちって成長していると思うんだよね。」
クラスのみんな頷くと、ユウタが
「たださ、成長ってのは、一人一人違うじゃん。俺は運動会で特に何もしなかったからさ正直成長できたかわからないけど、算数の授業で間違いなく計算できることが増えたって思うんだよね。みんなが成長を感じるはみんな違っていいんじゃないかな。」
タイチが続けて語りだします。
「たぶん学校も同じなんじゃないかな。アラタにとっては【勉強するところ】で、別のやつにとっては【仲のいい友達といられるところ】で【給食を食べられるところ】でいいんじゃないかな。だって学校に来るのは俺たちじゃん。」
「そうだよね。大事なことはなんでもいいんだけど、学校を使って自分のために時間を使うことなんじゃないかな。」
みんなが納得した表情を浮かべていると、ケンタが切り出します。
「じゃあ、チョコレートを食べられたり、昼寝がずっとできる学校は、学校って言えるのかな?俺は違うと思うんだけど。」
「えっ学校なんじゃない?」コウタは話を続けます。
「眠いときもあるし、寝たほうが集中できることもあるよ。」
ケンタは気付いた表情で、「あっそうか。自分のために寝るってやり方もあるのか。」と言い出すと、ハジメからは、
「でもさ、ずっと寝ていたらその時の自分はいいけど、未来の自分は困りそうだよね。」
それを聞いたモエからは、
「確かに!今の自分と未来の自分のためになるのが大事なのかもね。」
すると、しのぶ先生が話し出しました。
「みんなの話し合いを聞くと、どうすればみんなが成長しやすいかということを考えることが大切になんだね。」
しのぶ先生の話を聞いたアメリカ人のマイクは、
「僕は、授業は英語で話をしてもらえるといいな。日本に来て1年しか住んでないから、日本語難しいだよね。」
すると補聴器を付けているミライからは、「わたしは、音は大体は聞こえるんだけど、先生の話していることが少し聞き取りづらい時があるんだよね。だから先生が手話を使ってくれたり、テレビに字幕が出てくれたら嬉しいな。」
「その人が学びやすい言語で学べることはより成長するためには必要なのかもね」とウミが話をまとめました。
これまで静かだったショウタが語り出しました。
「俺は大きな手術があったから3年生から5年生までの間、学校に行けなかったから、正直みんなと同じことを一緒に学ぶことは苦しいんだよね。できるなら3年生の勉強からやりたいな。」
それを聞いたソラが、「私は塾で中学2年生の勉強をしているから、正直小学校の勉強って退屈なんだよね。」と心の想いを言葉にしました。
ヤマトは、「一人一人できることが違うんだからさ、みんなのためにはさ、学ぶ内容が選べるといいよな。」とみんなに伝えると、タクミが「じゃあ、学ぶ場所や学び方も選べるといいよね。」と話しだします。
「僕は一人で勉強するのが好きだから、一人で静かな場所で勉強できるといいな。」
マシモは、「俺は先生の話を聞きながら勉強するのがいいから、このままでいいな。」
「じゃあ、一人で勉強したいやつは一人で勉強して、みんなと勉強したいやつはみんなと勉強すればいいんじゃない。」とヒメノがみんなに伝えます。
「みんなやりたいことが違うんだったらさ、時間割も一人一人別でいいんじゃないかな。」とコノハがみんなに提案しました。
するとヤマトが「教科書以外のことも学んじゃダメなのかな?」と切り出しました。
「何を学ぶの?」とミキが返すと、
「俺は将来親父がやっている寿司屋で働こうと思うんだよね。だからこそ、学校に来るよりも親父の店で修行がしたいんだよね。」とヤマトは答えます。
YouTuberのエミの口からはこんな言葉が出てきました。
「エミは、YouTube撮っているから動画の編集のやり方を勉強したいだよね。」
それを聞いたプロゲーマー志望のクマが、「俺もできればゲームの練習をずっとしていたいんだけど、学校のみんなとは会いたいんだよね。」
それを聞いたヤマトやエミも頷いていました。
すると、タロウが「こんな学校はどうかな。」と言って、黒板に絵を描き始めました。しのぶ先生は横で見守っています。
「6年2組の教室の横には、ヤマトの親父の寿司屋があって、上の階には撮影スタジオがある。下の階にはゲーム用の部屋もある。これならヤマト達もはいつでもクラスに来れるからいいんじゃないかな。」
それを聞いたツバキは、「俺はなりたい職業とかわからないからさ、色んな仕事をしている人が学校の中で働いていて、休み時間使って、自由に見学に行けたらいいよね。」
「じゃあ、消防署は絶対入れて欲しいな。」とホムラが、「私は看護師が気になるから病院と、あとは美容院もあると嬉しいな。」とカノンが、「俺は野球場があるといいな。」とキュウジが言い出しました。
次から次へと意見が出てきます。「昼寝ができる芝生も忘れないでね。」とノゾミが言うとみんなが一斉に笑いました。黒板に書いてある校舎は次々と埋まっていき完成かと思われた時、
「しのぶ先生。」
小さな声でした。そちらを見ると、サンチェスが気まずそうに手を挙げていました。
「あのさ、俺はサッカー選手になるのが夢なんだ。だからこそ、お父さんとお母さんの生まれたブラジルでできるだけ早くサッカーの修行がしたいんだよね。だけど、みんなと一緒にいたい気持ちもあって、そんな願いを叶えてくれる学校は無理かな。」
すると間髪入れず、「俺はサンチェスと離れたくない。」とシュウトが言い出すと、「あんただけじゃないわよ。みんなそう思っているのよ。」とユリが言いました。
「でも、サンチェスの夢も応援したいよね。」と小さな声でスズメが呟きました。
みんなが黙って下を向いていると、
「あのさ」
ツキノが口を開きました。
「私、海外に興味があってね。いつか海外にも行きたいんだよね。学ぶ場所は自分で選べるんだったら、海外でもいいと思うんだよね。でも、私もみんなと一緒にいたいんだよね。だからさ、オンラインで集まるってのもアリなんじゃないかと思うんだよね。」
それを聞いたマサヒコが「確かに、オンラインでの授業もあるくらいだしな。集まるだけならできるよな。」と言い、続けてサクラが「じゃあ勉強するのもどこでもいいじゃん。」
話を聞いていたエイタが急に「そうか、そうだよな。」と言い出しました。
どうしたのか、みんながエイタを見ると
「一人一人やりたいことも、できることも違っていて、それぞれが成長するために一番いいところは違うのかもしれない。だからこそさ、学校はできるだけ多くの人が成長できるようにしたらいいと思う。
だから学校は、みんなが自分で選んで成長する場所なんだと思う。
それでも学校だと足りなくて、学校の外に行くのが必要な人は学校の外に出ることもできる。でも学校の外って不安じゃん。だからこそ学校はみんなの帰るところになったらじゃないかな。
みんながどこに行っても、何をしていても安心して帰って来れる場所。
オンラインで繋がるのもいいと思うんだよね。どんな形であれ繋がっていることがみんなが思いっきり成長するために必要なんだと思うんだよね。」
エイタの言葉を聞いて、みんなが頷きました。
時計を見ると、もうすぐ6時間目が終わります。
しのぶ先生は、最後に一言言葉を添えました。
「さて、これが6年2組40名全員の想いです。こんな学校にするためにこれからみんなが何をしていくかが大切です。明日からまた皆さんで話し合って決めていきましょう。」
「はい。」
このあと、この学校がどうなっていったのかは、みんなのご想像にお任せします。
ただ、6年2組のみんながいい顔をしていたことだけはお伝えしておきます。
おしまい。
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