【3分解説】バイデン(民主主義)vsプーチン・習近平(専制主義)
民主主義と専制主義で2分化する世界
・世界は民主主義(欧米)と専制主義(中露)の2つの陣営間で対立が深まっています。
・米国のバイデン大統領は、就任後初めての記者会見(2021/3/25)において、中国との関係を「21世紀における民主主義と専制主義の戦い」としたうえで、「中国は世界のリーダーとなり、最も豊かで強い国になるという目標を持っている。私が大統領でいるかぎり、そうはさせない」として、中国との戦いを制することに注力することを強調しています。
・一方、中国は中国で、外務省が「米国の民主状況」と題する声明文を公表しており、米国の民主主義は金権政治(金の力で権力を握る政治)で少数のエリートに統治されており、貧富格差・人種差別の問題も抱えるとして、一面の真実を指摘しています。
・2021年12月、バイデン大統領は公約でもあった民主主義サミットをオンライン開催しました。専制主義の国が増えている危機感に基づくもので、民主主義陣営の団結を強めることを狙いとしていました。バイデン大統領は演説で、「専制主義は世界中の人々の心の中の燃える自由の炎を消すことはできない」として、民主主義の優位性を強調しました。
・また、足元(2022年1月)においては、ロシアがウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を防ぐべく、ウクライナ国境に軍隊を展開し、米国との緊張が高まっています。
・米・中露対立を機に、世界は民主主義と専制主義で2分化されようとしている中で、日本はどのように立ち振る舞うべきなのでしょうか。
・その前提として、そもそも専制主義とはなにか、民主主義と比べて何が違っていて何が問題なのか、確認しながら考えを深めたいと思います。
専制主義とはなにか
・専制主義とは、ある国の政治が、国民の意思とは無関係に、一部の人たち(君主、軍人、政党、特定宗教)だけの意思決定で決まること。言い換えると、国民による意思決定(民主主義)ではない政治、すなわち非民主主義ということです。
・共産党による一党支配の中国、プーチン大統領による長期政権のロシアは専制主義といえるでしょう。
・とはいえ、民主主義の国は世界の多数ではありますが、専制主義(非民主主義)の国も一定数います。
・スウェーデンの政府間組織「民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)」は、2021年版「民主主義の世界的状況」において、民主主義国は98か国、権威主義(非民主主義の総称)国は47国、ハイブリッド(民主主義と権威主義の特徴を持っているが、民主的ではない)は20国としています。
(中国は権威主義、ロシアはハイブリッドにされています。)
・また、民主主義国家であっても、第二次世界大戦といった戦争のような危機的状況になれば、政府に権限を集中させ、専制主義化することがあります。国民の支持に基づく民主的な手続きによる場合、独裁主義ともいいます。
・独裁主義の起源は、共和制ローマの時代(紀元前509~紀元前27)に遡ります。
・ローマ共和国が危機的状況(疫病流行、外敵侵入)になると、議会である元老院は独裁官を任命し、全権委任により危機の打開を測りました。ただし、権限の委任は最長6か月の一時的なもので、その後、危機を脱すれば再び元老院による政治に戻っていきました。
民主主義と比べて、専制主義の何が問題なのか、逆に何が優れているのか
・民主主義と比べて、①個人の自由・権利の抑制、②経済が発展しない、という点が問題として考えられます。
・専制主義の国では、個人の自由・権利が抑制され、政府への反対派は排除・抑圧されがちです。また、政府への不満を抱えた民衆の増加により、政治が不安定なものになりますし、不満を抑えようとするほど、一層不満がエスカレートする悪循環になります。
・経済体制は、政府によって統制されることになります。歴史を見る限り、政府による統制の限定的な民主主義のほうが経済は発展し、国民は豊かになってきました。
・先進国である欧米が経済的に豊かなのは、国民が元手のお金(資本)をもとに、土地や生産設備、労働力といった生産手段を調達してお金を増やす仕組み(資本主義)を認めたからです。
・逆に、元手のお金や生産手段を国が統制したソ連や当初の中国といった社会主義国は、経済が上手く成長しませんでした。中国は、方針を転換し資本主義を上手く取り入れたため、世界の工場と言えるほど産業が発展しました。ただし、近年のアリババやテンセントなどの締め付けに見られるように、いざとなれば政府が介入できる専制主義であることに変わりはありません。
・一方で、①国の権限を集中したほうがいいとき、②優秀な統治者がいるとき、は専制主義が上手く回ることがあります。
・戦争のような危機的状況の場合は政府に権限を集中せざるをえないタイミングといえます。
・新型コロナウィルスの対応をめぐり、政府の権限が限定的で、人流抑制(外出自粛・休業要請は知事マター)・医療資源の活用(民間病床の確保、医師・看護師の動員)を迅速・効率的に行えなかったことも記憶に新しいですね。(どちらも民主主義的な理念、前者は地方自治、後者は営業の自由(病院の)とトレードオフの関係にあります)
・危機的状況でなくても、古代ローマのように優れた皇帝による専制主義により、長年の安定した治世(パクスロマーナ)を築くこともあります。
・パクスロマーナ(ローマの平和)とは、先ほどの共和制ローマから末期の内乱状態を打開するべく、ローマ皇帝による専制主義に移行した後の安定と平和を享受した約200年間の時代を指します。
・5世紀にわたる治世を行なった共和制ローマも、最後は属国(征服した他国)からの安価な農産物の流入で、政治を支えるべき市民(中小農民)が没落し、内乱状態に陥りました。その混乱を治めたのが初代ローマ皇帝のアウグストゥスです。元老院による議会政治から、アウグストゥスという皇帝による治世に移行しました。
・その後も、5代にわたる優れた皇帝による治世(五賢帝)が続き、貧困層や少年少女など弱者の保護、道路工事や大浴場(ローマ人にとって重要なリラックスできる場だった)といった社会インフラの整備、芸術・科学の振興など、国民に寄り添った行政が行われ、パクスロマーナと称される安定した時代を築きました。
・ただ、優秀な統治者はいつまでも生き続けることができるわけではないですし、最後まで優れた治世をできるとは限りません。
民主主義が機能するための条件はなにか
・民主主義に移行する前提として、国民側が政治を担えるようにならなければなりません。そのためには、経済成長により国民がある程度豊かにならなければなりません。十分に経済が成長していない貧しい国では民主主義に移行することは難しいといえます。
・というのも、貧しい国であれば、国民の教育水準も高まらず政治参加の意欲・能力も高まらりませんし、政治を担えるだけの教育水準を受けた人材層は富裕層・すなわち特定勢力(王族や宗教や軍部)にならざるを得ないからです。
・その意味で、民主主義を機能できる国というのは限られているはずです。逆に言えば、民主主義が機能できない国は、専制主義にならざるをえません
・例えば、学校で学園祭の出し物を決めるとしましょう。やる気のない生徒が多いクラスであれば、そもそも議論にならないし、しょうがないので特定の生徒(やる気もないけど先生の覚えがめでたいとか内申点をあげたいから)が議論を主導しアイデアの立案から実行まで行うことになりますが、やる気のない生徒が手伝うこともないから出し物自体シラけたものになってしまいます。
・そうではなく、そもそもやる気のある生徒が多いクラスであれば、議論も盛んになり、自分たちで決めたアイデアであれば、出し物の成功に向けてみんなで頑張るだろうし、出し物自体も成功する可能性が高まります。
・こうした理由から、経済が十分に豊かな水準まで成長していない国では、民主主義に移行することは難しく、専制主義に頼らざるをえません。
・ただ、経済的に豊かになり教育水準が高まったからといって、民主主義が機能するわけでもありません。うまく民主主義が機能しているように見えて、それは実は特定勢力がうまく立ち振る舞っているにすぎないのかもしれません。
・さきほどの学園祭の事例でいえば、特定のやる気があり優秀な生徒が、他の生徒のやる気を引き出したように見せかけ(本当は面倒だけど空気で流される)、マイノリティの意見は尊重するそぶりで適当にあしらい、議論も盛んなように見せかけ(結論ありき)、優秀な生徒が決めた出し物も結果として成功するわけです。
・果たして、これは民主主義といえるのでしょうか。見せかけを取り繕った専制主義ではないでしょうか。
・現実においても、民主主義とみなされる国であっても、貧富の格差・マイノリティは世代を超えて固定化される傾向にあります。この場合、実体としては、特定勢力(固定化された富裕層)による専制主義による政治になっているのではないでしょうか。
・また、後ほど見ますが、豊かになり教育水準が高まっても、社会の問題について様々な視点から議論を行い、どうするべきか考える能力と意思がなければ、民主主義は機能しないと言えます。
なぜ、専制主義になったのか
・今の専制主義国の土台には、第二次世界大戦後の冷戦構造があります。
・冷戦構造において、欧米の資本主義陣営は民主主義、中国・ロシアなど社会主義陣営は専制主義でした。
・資本主義というのは個人が資本を所有し自由な経済活動を認めるわけで、民主主義と表裏一体の関係にあるわけですが、社会主義では資本は国の管理するものになり個人の自由は抑制する必要がありますので、専制主義と表裏一体の関係にあります。
・ソ連が崩壊したことで、冷戦は民主主義側が勝利し、世界は民主主義に移行するように見えました。
・ただ、専制主義国である中国は、冷戦崩壊後、資本主義を上手く経済に取り入れることで経済成長し、ソ連に変わる専制主義の盟主となっています。
・一方のロシアは、民主主義に移行するかに見えましたが、統制経済から急速な市場経済への転換を行なったことで物価が高騰、政治家層が十分に成熟していなかったことから権力闘争が激化するなど社会は混乱しました。
・結局、強いロシアを掲げて、エネルギー輸出の拡大による経済成長を実現したプーチン大統領による専制主義に戻ってしまいました。
・そもそも、中国・ソ連の思想の核である社会主義を提唱したドイツの経済・哲学者であるマルクスは、資本主義自体については舌鋒鋭く労働者が搾取される点を批判しました。
・批判の概要としては、利己心に基づく資本家は、労働者の賃金を下げるインセンティブが常にあり、労働者は労働力に見合わない賃金を受け取ることになり、労働者の不満がたまることで社会が不安定化するというものです。
・ただし、代替となる具体的な社会主義のあり方を語っていません。だからこそ、中国やソ連は、ある意味自分たちのやりたいようにやった(大飢饉をもたらした大躍進政策など)訳で、結果として経済を混乱に導いてしまったわけです。
日本は民主主義なのか、いつからなのか
・日本が民主主義に移行たのは明治以降です。幕藩体制で特定勢力(武士)が政治を担っていた江戸時代から、明治維新で国民が政治を担う体制に移行しました。
・ただ、明治維新のきっかけは外圧で、民主主義の体制になった理由も、伊東博文をはじめとした優秀な若者が欧米に留学し、各国の政治体制を学んで模範にしたからでしょう。
(仮に欧米が専制主義であれば、専制主義を取り入れたのではないでしょうか)
・その後、大正の終わりには国民から選ばれた政治家が政治を担う(政党政治)ようになりましたが、関東大震災(1923)や世界恐慌(1929)が起こり経済・社会が混乱する中で、政党政治は上手くコントロールできず国民の側も不満が高まりました。
・結局、犬養毅首相が暗殺された5・15事件(1932)の後は海軍トップの斎藤実が首相になり、政党政治は戦争が終わるまで戻りませんでした。
・また、政党政治に不満を高めた国民も、特定勢力(軍部)が権力を掌握することを進んで受け入れたともいえます。
・戦後は、戦勝国であるアメリカの指導のもと、再度民主主義に移行することになりました。
・結局、明治維新も戦後も欧米の外圧によって民主主義に移行したわけで、国民の意志で政治体制を選んだとはいえません。
・国民の側に自分たちの意思で社会問題を解決しようとする政治意識は育たないまま今日に至っているのではないでしょうか。
・先ほどのIDEAによると、日本の投票率は53%で世界で139位で、日本の国民の民主主義に対する意識は世界で比べても低い状況にあります。
・結果として、政治家の側も、政権の中枢を担う議員の経歴を見れば、ピカピカの世襲サラブレッドか特定勢力の代弁者ばかりです。
・というのも、上述の通り、自分たちの意思で社会問題を解決する政治意識が国民に薄いことが原因でしょう。
・学校教育において、デジタル人材を育てるためにプログラミング教育をすることも重要かもしれませんが、民主主義を機能させるために、社会問題を様々な視点から議論する教育も必要なのではないでしょうか。
どっちの勢力が強まるのか
・世界のトレンドとして、先進国以外の国が豊かになることで、世界は豊かになっていく流れにあるといえます。
・しかし、社会問題の解決に対する意識や民主主義を行う意思がないと、民主主義は機能しませんので、経済は豊かになっても必ずしも民主主義が進むわけではありません。
・実際、IDEAは報告書「民主主義の世界的状況」2021年版において、過去10年余で民主主義の後退国は2倍に増え、2020年で権威主義に転じた国が民主化した国を上回ったとしています。
・また、IDEAは、戦後日本を民主主義に導いた米国を「民主主義が後退している国」に分類しています。
・米国では、トランプ前大統領が2020年選挙結果の正当性に疑義を唱えて国民から一定の支持を集めています。
・また、共和党が優勢な州では、本人確認を厳格化する投票規制強化法が成立し、黒人などマイノリティが投票しづらい環境(運転免許証など正式な身分証明を持たない人が多い(身分証を作るお金も事欠くため))を作りつつあります。
・そこで、バイデン大統領は、選挙日を祝日にし、全有権者が郵便投票を可能にする投票権法案の成立を図りましたが、2022/1/19に上院で否決されています。
・マジョリティの意に沿わないマイノリティを排除するというのは、まさに専制主義の国における反対派の抑圧となんら変わらない点で、民主主義は後退しているといえます。
・そもそも、長年貧富の格差は放置され、一部のエリート層による専制主義的な要素もあり、民主主義の水準自体高いとは言えなかったのかもしれません。
・ただ、だからといって専制主義が人々を幸せにするわけではないことは、歴史を見ても明らかです。
・自分たち一人ひとりが幸せになるから、自分たちが所属する国も豊かになるし、国が豊かになれば、自分たち一人ひとりも幸せになります。この好循環を生むのは専制主義ではなく民主主義であることは明らかでしょう。
・民主主義と専制主義の勢力争いを決めるのは、今民主主義の国、あるいはこれから民主主義に移行しようとする国が、やはり民主主義でないと未来はない、と思えるように、アメリカをはじめとする民主主義陣営の国が立ち振る舞えるかどうか、ここが重要な分かれ目ではないでしょうか。
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