14番目の月
今日は中秋の名月だけど、満月は明日だ。
「次の夜から 欠ける満月より
14番目の月が好きだから」
荒井由実だっけ。
わかる。
あの、片思いが実る、あの瞬間。
あなたが私を好きなように
私もあなたが好きだった。
熱く焦がしたフライパンにバターを一切れポトンと落とすと、ジュッと音がして一瞬にしてとろける。
あの、瞬間。
でも、一瞬にしてバターの匂いがそこらへんに匂い、そして、それはあっという間に日常に馴染む。
落とした瞬間のワクワク感はあっという間に消える。
あなたが手を差し出して、その指先に触れるあの瞬間。
周りの音が聞こえなくて。
心臓の鼓動だけ、私を取り囲んでしまう。
手を繋いだら、あのとろける感触はもう終わり。
いつもドキドキしていたいと思うのは勝手。
あなたも私も年をとってキラキラではいられない。
でも、あの、月を見た、瞬間の。
片思いが、お互い手が繋がった瞬間の。
まるでスパークした刺激を忘れたくないの。
頭の先から爪先まで、まるで周りにわざと聞こえるような心臓の鼓動を、今も忘れていないから。
「柳に風
その先は言わないで」
次の夜から欠ける満月より
14番目の月が好きだから。
荒井由実
14番目の月