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全部、カッサータのせい

 カッサータというスイーツがある。

 初めて名前を知ったのは中学生の時だ。その頃好きだったマンガに名前が出ていた。もう30年くらい前だ。年上の素敵な人からランチに誘われた主人公が「デザートにカッサータ」と言われて、ホクホク顔でついて行く。カッサータとは大変に魅力的なスイーツらしい。どうもオレンジが使われているらしいのは地の文に書いてあるが、それが何かはっきりとわかる絵が見当たらない。何だろう。

 今ならとりあえずググる。当時だって図書館に行けばイタリア料理の本くらいあったろうし、お菓子の本だってあったはずだ。自分で調べられなければ、司書の方に訊けばいい。しかし、あまり頭の良く無い中学生は何だろうをそのまま放置した。

 中学生の興味なんかあちこちに散らかっていて、次から次へと新しい面白いモノを見つけてしまうから、仕方なかったのかも知れない。

 ところが、つい半年ほど前、カッサータの名前がTVから聞こえてきた。ローソンの新作の冷凍食品の紹介だった。冷凍庫から出してそのまま食べられるスイーツが何種類か発売されていたが、その中の1つにそれがあったのだ。

 好奇心に任せて、翌日、思わず近所のローソンに走る。もう何十年も口できなかったものが目の前に突然現れたのだ。こんなチャンスは逃してはならない。

 食べてみるとローソンのそれは口当たりが軽すぎてまあ別ものなのだろうが、とはいえ美味しかったし、とにかく嬉しい。とにかく嬉しい。子供みたいに嬉しい。しばらく隙アラバとカッサータを何度も買っていた。今だってダイエット中だというのに、冷凍庫にちゃんと入っている。一切れ80キロカロリーなのだ。まあ、心が折れそうな日には食べてもいいじゃないかと言い訳できるカロリーだ。


 と、そのうち、あの漫画が読みたくなってくる。

 結婚する時に実家に置いてきたからまだあるはずだけれど、こちらに猫に強烈なアレルギーのある家族がいるので、猫が6匹もいる実家の荷物をましてや本のように洗えないものを持ってくる事は殆ど不可能だ。

 どうしたものか…と、悩むまでも無かった。

 偶然というのは重なるもので、たまたま新調したKindleの端末にオマケでついていた読み放題プログラムにあの漫画が入っているのを見つけてしまったのだ。ただ、ああいう読み放題プログラムというのは絶対一部しか開放しない。残りは買いましょうというシステムだ。そうでないと商売にならないから仕方ないが、途中まで読んでしまうと続きが気になってしょうがない。

 しかも、何より驚いたことに、未だに連載が続いていたのだ。

 特に思い入れが無ければそのまま放置もできるが、地の文に出てきたちょっとしたスイーツの名前を何十年も覚えていたくらいだ。放置できるわけが無い。

 結局、色々考えたのか考えて無いのか、Kindleで大人買いした。

 全部読んでみると、昔読んでいたのは前半3分の1位だった。

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 (ここから先はネタバレがあるので、それがイヤな人は読まないでいただけるとうれしいです。)

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 ちょうどそのくらいのところに、冒頭の話のランチに誘う年上の素敵な人が女友達との会話で言葉少なに主人公への想いを初めて口にする名場面がある。
 もちろん、その場に主人公は居ない。おそらくその時点で、主人公はその人がそんな風に自分の事を思っているなどとは殆ど気づいていないし、気付く気も無い。
 主人公は主人公でその人をおそらく人として好きなので、決して無下には扱わないし、信頼しているし、それが思わせぶりに見える時もあるけれど、とにかく気付く気はまるで無い。
 そこまでの物語の全てがその場面のその人の届かない告白のためにあるのでは無いかと思ってしまう、切ない、もしかしたら残酷なくらい哀しい、ファンにとっては忘れ難い名場面だ。

 懐かしく読み返す。

 この辺りから先は今回殆ど初めて読んだので、物語の中盤以降を殆ど知らなかったことにも驚いた。

 この後、主人公は、その人の気持ちに気づくつもりは無くても、湧き上がる自分の気持ちはどうやっても無視できなくなってその人に惹かれて行く。ファンとしては、これがとてもとても愛おしい。

 どうもこの漫画にハマるか否かは、この主人公を好きになれるかにかかっている様だ。

 主人公はよく泣くし笑うし、美味しいものには目が無いし、甘ったれで周りもそれを許していてどうかと言われる反面、どこかでとても冷静だったり、切れ物でふとした瞬間に鋭い観察力があったりする。機転もきく。

 おそらく天然で機転がきくのは素で、鋭さは後から職業柄や努力の結果身につけたものだ。ただ、そういう努力の結果は、身近に凄すぎるお手本がいて、それと比べてしまうので自分では大したことは無いと思っている。

 グダグダした甘ったれに見えて、意思も強いし、努力家でもあるし、潔く、子供には特にやさしい。分かり易いのか分かりにくいのか…。若干正体不明なせいか、いい子で誰とでも仲良くできる割に、友達がいない。というより、話に出てこない。でも、周囲の人たちには確実に愛されている。不思議な子だ。あまり他で見たことは無いキャラクターではある。

 そして、年上の素敵な人がこの子を愛おしく思う気持ちもファンなら分かる。

 結局、物語の中盤で2人の想いは通じ、主人公がその人についていき、色々な事件に巻き込まれながら話は続いて行く。この頃から、元々ソコソコ切れ物で仕事もできた主人公は要するに専業主フ状態で勿体無いとかファンにも色々言われる状態になっているのだが…。

 でもね、大怪我もしてたし、体調も万全とは言えない状態で、相手の都合に合わせて各地を転々としていて…だ。場合によっては、元々好きとはいえクルーザーに乗って海の上で何ヶ月も過ごしたりしてもいる。体力的に楽な生活では無い。

 その中で、主人公は、いつもお料理上手で、家事全般つつがなくこなして、お部屋にお花まで飾って、笑顔でいる。

 その人についていけばそうなるのは分かっていたことだし、自分で決めて選んだ生活なので、悔いはありませんと(言われてませんが)言われればそうだ。


 が、でもですよ。いや、誰に言われたわけでも無く自分で決めて結婚した割に文句ばっかり垂れてるダメ人間としては、主人公のあまりの潔さが逆に眩しく、男らしさと映り、最近、深みにハマって抜けられなくなっているのです。

 リアリティの問題では無いです。(無いのはさすがに分かっています。)
そういうファンタジーを補給したい時期なんでしょうね、今。

 そういうわけで、元をただせば、全部、カッサータのせいですが、主人公のその人といる一瞬一瞬が最高の幸せと分かる笑顔を心の糧にして、ここのところ過ごしたりしております。


閑話休題






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