第6章 「生産性」の高い会社であり続けるために
4.「1人当たり付加価値額」を高めるために
優良企業には、より多くの「1人当たり付加価値額」を生み出すことと、その「付加価値額を上手く分配」する力が求められます。
今回は、1人当たり付加価値額を高める方策を見ておきましょう。
「付加価値生産性」(1人当たり付加価値額)を高めるための方策は、「設備集約型企業」であるか「知識集約型企業」であるかによって着眼点が異なります。
「設備集約型企業」が生産性を高める方法
設備集約型企業は省力化投資で付加価値生産性を高めることを考えます。「機械にできることは機械にやってもらう」ということですね。
付加価値生産性の計算式の分子と分母の両方に「設備資産」を掛けると、「1人当たり設備投資額」(設備装備額)と「設備投資効率」(設備投資の回転率)の2つに分解できます。
1つ目の要素である「1人当たり設備投資額」が大きいならば、機械装置などへの設備投資を積極的に行っている会社だといえます。
分子の設備資産は、機械装置、車両運搬具、工具器具備品など生産活動に直接的に貢献している固定資産の額とします。工場や本社ビルなどの建物、その敷地である土地などは除きます。また、固定資産の取得価額ではなく、当期までの減価償却累計額を控除した帳簿価額で計算します。
2つめの要素の「設備投資効率」は、設備資産を有効に活用しているか、つまり、効率性をチェックする指標です。
設備投資額の何倍に相当する付加価値額を生み出したか、あるいは1年間の付加価値額で何回、設備投資額を回収できたかを表わします。
この計算結果が大きいほど、設備投資の効率が良いことを意味します。
設備資産への投資額に比較して、小さな付加価値額しか生み出せないようであれば、投資効率が悪く回転率は低くなります。
投資により生産性の高さが左右される製造業などでは、1人当たりの設備投資を高めながら、設備の稼働率も下げない努力が必要です。
「知識集約型企業」が生産性を高める方法
知識集約型の会社が付加価値生産性を高めるには、価値を生み出せる人材が多く働いているかどうかがポイントとなります。
たとえば、ソフト開発、コンサルティング業、アイデアやノウハウを売り物にする会社では、差異化を図った個性的な商品やサービスを機械で量産することはできません。いわば、原材料などの素材がないところから価値を生み出す商売、無から有を生み出すにも等しいのです。
このような知識集約型の会社では、従業員全員が「1人当たり」という視点で会社の数字を考える習慣を定着させることが大切です。
「付加価値生産性」の計算式の分子と分母に「売上高」を掛けてみると、「1人当たり売上高」と「付加価値率」に分解できます。
1人当たり売上高を伸ばすためには、従業員の貢献が不可欠となります。そのために従業員がやる気を持つ表彰制度、インセンティブとしての報奨金大入り袋など、処遇面で報いるしくみ作りも必要です。
付加価値率を高めるためには、素材に価値を付加することで商品、製品、サービスの差異化を図るとともに、適正な値段を通す企業力が必要です。
「仕入れて売る!」という卸小売業では売上原価が外部購入価値なので、付加価値額は売上総利益と近い数字になり、結果として、付加価値率は売上総利益率(粗利益率)と近い数字となります。
「作って売る!」という製造業は、決算書から外注加工費、材料費、運賃などの外部購入価値を集計したのち、付加価値額(売上高-外部購入価値)を売上高で割ることで付加価値率を計算します。
生産性改善のために「労働の質」を高める
最後は、すべての企業で必要となる視点です。
付加価値生産性の計算式の分母と分子に「労働時間」と「売上高」を掛けてみると、次のとおり、「1人当たり労働時間」と「1時間当たり売上高」そして「付加価値率」の3つの要素に分解できます。
1人当たり売上高を大きくする方法は、1人当たり労働時間を延ばすか、あるいは、1時間当たり売上高を増やすかのいずれかです。
しかし従業員の余暇を犠牲にした長時間労働で会社の売上高が増えても、それは長続きしません。1時間当たり売上高をアップさせることで、1人当たり売上高を向上させていきたいものです。
労働時間の延長で付加価値額を生み出すのではなく、「労働の質」を改善することで付加価値生産性を高めることがポイントになります。
従業員としては、所定の時間内に最高のパフォーマンスを提供できるよう研鑽に努めることが求められます。その結果、仕事とプライベートの両立を実現した健康で充実した幸せな人生を手にすることができるはずです。
そのために企業側としても、それぞれの従業員が担当する業務に熟練できる教育体系を整え、育成、訓練制度を充実させなければなりません。
付加価値生産性を高めるためには人的資本に対する投資が不可欠です。
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