第3章 「収益力」の高さはここに表れる
7.ビジネスの成果を「利回り」で評価!
「総資産利益率」は会社の総合力
これまで、「粗利益率」「営業利益率」「経常利益率」「当期純利益率」など損益計算書から収益力を見る指標を取りあげてきました。
最後に、「総資産利益率」で経営成果を総合的に評価しましょう。
総資産利益率とは、総資産(=総資本)をいくら投入して、どれだけ利益を稼いだかという成果を意味します。
会社経営にお金を投資した結果の「利回り」を表わします。
もしも、総資産利益率より外貨預金の利回りの方が高いという状態だと、保有している資産をすべて売り払って、預金で運用したほうが効率が良く、楽に儲かるということになってしまいます。
そのような利回りの低い状態では経営者は評価されないわけです。
総資産利益率の計算における分子の「利益」は、ここでは「支払利息控除前経常利益(=経常利益+支払利息)」とします。
分母の総資産(=総資本)は他人資本と自己資本の合計額です。そこで、分子の利益を、他人資本の調達コスト(=支払利息)と自己資本の調達コスト(=支払配当金)を控除する前の実力利益とすれば分母と分子の整合性がとれるためです。
経常利益をそのまま用いて計算すると、支払利息は控除後だが、支払配当金を負担する前の実力利益での利回りとなります。収益力が同じ程度でも、支払利息の負担が大きい企業の利回りは低めに計算されてしまいます。
もちろん総資産利益率は、その目的とチェックする人の考え方に従って、営業利益、税引後営業利益、当期純利益、経常利益など各利益を分子に用いて計算されます。それぞれ正当性があり、唯一のルールはありません。
また分母は、厳密には前期末と当期末の平均での総資産にて計算します。損益計算書は期首から期末までの経営成果、貸借対照表は期末日の財産状況を表す計算書類です。総資産利益率などP/LとB/Sをクロスしてチェックする経営指標では、貸借対照表の数値は前期末と当期末の平均値を用います。
「総資産利益率」を高める2つの方策
それでは、総資産利益率をアップさせるための方策を考えてみましょう。
次のとおり、総資産利益率の算式の分母と分子に「売上高」を掛け合わせてみれば、「経常利益率」と「総資産回転率(=売上高÷総資産)」という2つの要素に分解できます。
総資産利益率を高めるためには、まず経常利益率を高める企業努力が不可欠です。付加価値の高い製品を提供することで適正な値段を通すとともに、諸経費の削減を心掛けます。
しかし、ある企業が魅力的な新製品を出したなら、ライバル企業からも同じような価格あるいは少し値段を下げた類似製品が登場します。そのため、価格面での差別化は難しく、自由競争下では、同業他社間の経常利益率は、ほぼ同じところへたどり着くことになります。そうなると、もう一つの要素である総資産回転率を高める努力が重要となります。
「回転率志向」の身軽な経営が大切!
総資産回転率とは、総資産(=総資本)の何倍の年商を稼いでいるのか、言い換えれば、年商で何回、総資産を回収できたかを表す経営指標です。
総資産回転率が2回転である会社は、総資産の2倍の年商を稼いでいる、年商で2回、総資産を回収できたということを意味します。
お金のことを「御足」ともいいますが、お金は滞留することなく、会社の周りをグルグルと勢いよく回わっていることが望ましいのです。そのため、回転率が高い会社ほど、金回りが良く資金繰りが良好、利益を残せる体質、効率的な経営ができている会社だと評価できます。
総資産回転率が低い場合には、「お金」の具体的な使い方である総資産の中身をチェックする必要があります。
総資産のなかで、売上債権、棚卸資産、固定資産などは資金が寝やすい科目です。売上債権が不良債権、滞留債権化していないか、棚卸資産が陳腐化していないか、売上獲得に貢献していない固定資産がないか、それぞれの中身と回転率もチェックします。
総資産利益率の高い会社となるためには、少ない総資産でも大きく稼げる「回転率の高い」経営、つまり「身軽な経営」を実践することが大切です。
企業の総合的な収益力である総資産利益率は利益率の高さだけではなく、回転率の高さにも左右されるわけです。