会いたかった
弟が死んで2ヶ月が過ぎた…
私は、今までとなんら、変わらず家事と仕事をこなし、TVを見て笑ったり、友だちと酒を呑んで管を巻いたりしている。
弟の部屋があった2階…気がつくと、窓から陽光が差し込み、部屋全体がオレンジに包まれようとした頃だった。
玄関から、人の気配を感じた。
近所に住む狩野さんの奥さんが嬉々として私が居る部屋に入ってきた。
「帰ってきたよ、今、帰ってきたんだよ」
何を言っているか、分からない。
奥さんは私を玄関の方へと手を引いて促した。
そこにはいつの間にか大勢の人が集まっていた。
すると、驚いたことに、たくさんの人に支えられて、顔が半分で片腕、わき腹も抉られた状態で立つ弟の姿があった。
(え…なんで?)
「死んでなかったんだよ」
誰かの声が聴こえた。
こちらに歩いてくる弟の姿に、信じられない光景より、懐かしさが込み上げて思わず手を伸ばしその懐に飛び込む。
片手で私の肩に腕をかけると、いつもの笑顔をこちらに見せた。
私は涙で顔をあげることが、できなかった。
「姉ちゃん、なに泣いてんだよ(笑)」
「会いたかった…」
泣いてる私の背中をさすりながら、弟は、笑っていた。
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私は、それまで考えることを止めていた思考を静かに動かした。
(じゃあ、あの焼かれた骨は一体…)
瞬間、脳内には葬儀や、火葬場の情景がよみがえった。
そして、私は、いつもの自分ベッドで目を開けた。
泣いていた、、、、、あぁ、、そうか。
手で涙を拭うと、手元にあった時計を見る。
『am6:55』
そろそろ起きる時間だ。
(あいつ、笑っとったなぁ)
癌になったと知らされて、助からないと分かって、亡くなるまであっという間だった。
その間、一度も夢に見たことなんてなかった。
笑顔で挨拶にくるとは、あいつらしい。「何、泣いてんだよ(笑)」
そうだな、また、いつでも会えるから、それまで愉しく暮らすよ。
君に会えて良かった。
ありがとう。