見出し画像

データドリブンな消費者理解とは?

ビッグデータにおける相関関係の重要性
「ビッグデータとは何か?」――このことについては、さまざまな人が論じています。例えばビクター・マイヤー=ショーンベルガー とケネス・クキエは著書『ビッグデータの正体』において、データ間になんらかの相関関係があるという「事実」がわかればその「理由」は重要ではない、つまり「因果関係ではなく相関関係が重要になる」と指摘しています。集団から無作為に抽出された一部のデータを用いて、現象の背後にある理由を理解しようとするのではなく、文字通りすべてのデータの中から「商品Aを購入した人は商品Bも購入している」といったようなデータ同士の相関関係を見つけ、そこから新たなひらめきを得ようとする考え方が重要だということです。重要なのは理由ではなく結果であり、因果関係に執着しないスタイルこそがビッグデータ活用の本質だということになります。

物語消費からデータベース消費へ
前述のようにデータ分析のスタイルが変化することによって、消費者理解はどのように変わるのでしょうか? ここで、批評家の東浩紀が提示した「物語消費からデータベース消費へ」という消費スタイルの変遷について確認したいと思います。ただし、それを論じる前にまず、批評家の大塚英志が提示した概念である「物語消費」について紹介します。

物語消費とは、商品の消費を通して商品の背後にある世界観、もしくは物語を消費していた時代における消費スタイルのことです。その一例として、『物語消費論』ではチョコレート菓子の「ビックリマンチョコ」が取り上げられています(*1)。ビックリマンチョコに封入されている、キャラクターシールの裏面には「悪魔界のウワサ」という短いエピソードが記載されており、そのシール(エピソード)を集めていくことによって、背後にある神話の世界(世界観)が現れてくるという構造になっています。一方、個々のキャラクター(シール)はこの世界観によって意味づけられているのです。すなわち、消費者が消費していたのはチョコレート菓子でもシールでもなく、この背後にある世界観だったというわけです。他にもシルバニアファミリーなどが例示されていますが、ファッションなども背後にある世界観を消費していたといえるでしょう。

この「物語消費」の概念を踏まえた上で、批評家の東浩紀は、90年代後半のオタク系サブカルチャーを題材に、オタクがオリジナルの物語(原作)から要素のみを取り出して別種の新しい物語を二次創作していくこと、さらに「キャラ萌え」と呼ばれるような、特定のキャラクターのみを原作の物語や世界観から切り離した消費スタイルに着目しました(*2)。この消費スタイルにおいては、物語消費の時代に背後にあったはずの世界観や物語といったものは失効し、存在するのは要素の集合、つまり「データベース」であると指摘しています。データベースから要素を抽出して組み合わせることで、商品はなかば無限に構成されるのです。これが「物語消費からデータベース消費へ」という消費スタイルの変遷です。

図1 「物語消費」と「データベース消費」

画像1

東浩紀, 2001, 『動物化するポストモダン』講談社現代新書.(*2)をもとに作図

データベース発想のマーケティング
「物語からデータベースへ」という流れは、マーケティングにおける顧客認識においても顕著になってきました。これには2つの理由があります。1つ目は、オタクの消費行動だけでなく個人のパーソナリティーそのものが、物語的というよりはデータベース的になってきていることです。2つ目は、DMPに代表されるテクノロジーが捕捉する顧客像も属性の組み合わせになってきているということです。

前者については「『個人』という概念のワナ」でも言及したように、若者におけるパーソナリティーのあり方の変化によるものです。状況志向的で、「本当の自分」といった統一的なアイデンティティーを背後にもたず、データベースからキャラクターを抽出し、状況に応じてキャラクターを使い分けるようになった彼らに対しては、統合された単一の顧客像を描くことはできません。そのため、状況によって異なるそれぞれのパーソナリティーを捕らえることがマーケティング活動において重要になってきたのです。

また、後者でいえば、DMPを活用したターゲティングなどに代表される、顧客の把握は、統合されたひとつの顧客イメージを作成する従来型のペルソナマーケティングとは、アプローチが異なります。顧客を「ある特定の語を検索した」「ウェブ上である特定の行動をとった」などの要素の組み合わせとして把握するため、体系化された統一の顧客像をもつ必要がないのです。従来型のペルソナマーケティングの顧客把握が断片的で、ステレオタイプ化されたものになりがちなのに対して、DMPを活用したターゲティングなどに代表される顧客把握は網羅的に属性を把握できるが、それらを体系化して説明するのには不向きであるという特徴があります。

図2 従来型マーケティングと新型マーケティング

画像2

このようにマーケティングの手法も「社会そのものの変化」と「テクノロジーの変化」の両面から、物語的なスタイルからデータベース的なスタイルに変わりつつあるといえるでしょう。

注釈:
(*1)大塚英志, 2001, 『定本 物語消費論』角川文庫.
(*2)東浩紀, 2001,『動物化するポストモダン』講談社現代新書.

本記事は、2017年1月11日に掲載したInsight for Dの記事を、note用に許可を得て転載しています。
※元記事:https://d-marketing.yahoo.co.jp/entry/20170111430329.html
(Insight for Dは2020年6月30日に終了予定です)






いいなと思ったら応援しよう!