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空想お散歩紀行 寿命チップ

「おめでとうございます!」
華やかなライトが俺の周りを包み、歓声がホール中にこだまする。
こんな時に限って、ということが今までの人生で幾度となくやってきた。いや、俺の人生はほとんどそれだったのではないかと思えるほどだ。
金が欲しいと思っているときに限って金はなく、むしろ減り続ける。
俺は死にたいと思っていた。
あらゆる絶望が俺を襲い、地獄の口がゆっくりと開いた時、不思議な場所へと導かれた。
そこはまさに地獄の口。その凶悪な牙に嚙み砕かれる一歩手前の場所。
そこはカジノだった。
全てを失った人間が、最後手にしている『命』という財産。
それをチップにして賭けるというまさに地獄の賭場だった。
その時の俺の寿命は残り60年。結構生きるもんだと思ったが、何も持っていない現状でそんな生き続けてもしょうがない。
最後は気持ちよく使ってパッと散るのも悪くない、なんて思い始めたのだが・・・
そんな時に限って、大当たりも大当たり。
60年という最初のチップは増えに増え、俺の寿命は1000年を超えてしまった。
ちなみにここのカジノでの過去最高記録らしい。
最初は、もう何も無いと思ってヤケになっていたのに、そんな俺ですらこれにはテンションが上がった。
それだけ寿命があれば何でもできるのではないかという気にさえなってきた。単にギャンブルを当てているという単純な理由ゆえの興奮だったかもしれないが。
だが、いつも自分の思いは裏切られる。
このカジノで得た寿命の意味はもっと重いものだった。
寿命が残っているうちは、病気はしないし、大ケガをしたとしてもすぐに回復する。
つまり不老不死の状態になっているのだ。
途中で自殺なんかして降りることはできない。1000年生きなければいけない。それはとてつもない拷問なのではないかと、俺は思い始めた。
だが、ギャンブルで得た寿命を減らすにはギャンブルでしかできない。
俺は何とか普通の寿命に戻るため、わざと負けるために再びこのカジノに足を運んだのだが、そんな時に限って、である。
俺の寿命は逆に2000年まで増えてしまった。
ここまでくると、カジノ側のやつも自分のことのように喜んでくれている。いや、そうじゃない。
ギャンブルの本出しませんかって言ってくるやつもいる。いや、誰だお前。
俺は以前とは別の意味で死にたいと思うようになっていた。

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