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空想お散歩紀行 修学旅行は非日常の別世界

日頃、勉学やスポーツに励む日々の学生として、最大級のイベントの一つと言えば、修学旅行である。
春から新緑の季節へと移り変わるこの時期は、日本の名所と呼ばれる土地に修学旅行生の姿を見かけることは珍しくない。
古都京都。修学旅行の定番中の定番。
「これが金閣寺かー。生で見るの初めて」
「きんぴかー」
4人組の学生服を着た男女のグループが金閣寺を見ながら、それぞれ感想を口にしたり、スマホで写真を撮っていた。
旅行ではあるが、あくまで学校行事。縛られたルールの中で、彼らは最大限に楽しもうとしているのが見て取れた。
だが、他にもいる修学旅行生が皆金閣寺ばかりに意識が向いているのとは違って、彼らはそれ以外の風景、周りにいる他の同年代の少年少女や、日本人、外国人を含めた観光客たちも同じように興味深そうに眺めていた。
「京都ってこういう場所だったんだね」
一人の少女がぽつりとつぶやいた。
「そうだな。ここが‘一番マシな’京都がある世界だろうな」
少女に答えるように、男子生徒が周りを見ながら言った。
世界は一つではない。あらゆる可能性により、無数の世界が存在している。限りなく似通った世界から大きく違う世界まで。
彼らはそれら全ての世界を観測する世界から修学旅行にやってきた。
可能性を操作し、それによる変化を観測し、その世界の行く末を見守る。
それが、彼らの世界の使命だった。
「この前できた世界だと、今の時点で京都は全部焼け野原になってたからね」
「ま、その分世界最強になるんだけどな、日本」
「はいはい、学校の話はここで終わり!」
ついつい日常のモードになりそうなところを、同じ班のもう一人の少女が再び非日常に連れ戻した。
自分たちは観測する者として、他の世界より上位者に位置する。しかし、それに驕ることなく、自分たちが観測する世界に実際に行って、そこに生きる人々、流れる空気に触れることで、これからの自分たちの責任を自覚できるようにする、と言うのが学校側の修学旅行の大義である。
しかし、学生にとっては修学旅行というのは、ほぼほぼ遊びと同義なのは、どの世界でも変わらないのかもしれない。
「さ、次どこ行く?やっぱ金の次は銀?」
「そっちは写真見た限り何か地味なんだよな」
「あたしお菓子食べたい。京都ってすっごいたくさんあるんだ」
傍から見る分には、どこにでもいる修学旅行生と変わらない彼ら。彼らにとっての異世界修学旅行は、まだ始まったばかりだった。

https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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