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空想お散歩紀行 死神ブラック

今週の週刊魔界にとある特集が取り上げられ、意外な反響を呼んでいた。
それは、死神たちのブラック労働環境の記事だった。
死神たちと言えば、人間界で死んだ人間や動物などの生物の魂を収集し運ぶのが役割だ。
その起源は古くからあり、最も古い仕事の一つに数えられる。
しかし、その昔から当たり前にある、ということが人々から問題意識を起こさせなくなっていたのだ。
先述した通り、死神は死んだ者の魂を運ぶ。しかし死者と言っても一様ではない、様々なケースがある。
今回、問題として取り上げられたブラックな環境とは、非業の魂に関するものだ。
特に人間にはいろいろな死因がある。その中でも、殺人、不慮の事故、自殺等々、人間が、恨みや後悔、絶望のうちに死んだ場合の魂は、業界でいうところの、『重さ』が段違いらしいのだ。
イメージで言うと、汚くて嫌な匂いを発していて、ネチョっとしている、あらゆる汚物を拭いた雑巾と比喩する死神もいるそうだ。
そんな負の感情を持って死んだ人間は思いのほか多い。しかも、その数は時代が進むごとに増えることはあっても、減ることはめったにない。
だから、そのような人間の魂を集めている死神たちにも影響は及び、近年心身を壊す死神が増えているのだそうだ。
もちろん、悲惨な死に方をした人間ばかりではない。
お金や人間関係に恵まれ、幸福のうちに死んだ人間も多い。
だが最近は、そういう幸せな人間の魂を集める死神と、不幸な人間の魂を集める死神の二極化が進んでいるのだそうだ。一部の死神たちの間では、良質の魂ばかり集めている者たちを上級死神などと揶揄する声もあるのだとか。
そしてそんな現状を知っているのか、最近の若手死神たちは最初から動物の魂専属になりたがるらしい。
動物はたとえ強者に捕食されようとも、それを自然の掟の一部と割り切っていて、そこに恨みや絶望がないから人間よりマシなのだそうだ。
かつては、どれだけの人間の魂を集めたとか、どんな有名人の魂を回収したとかが、死神たちのステータスだったが今の若者には分からない価値観なのかもしれない。
しかしこれを時代の流れと眺めていてはいけない。
死者の魂の回収は無くてはならない仕事だ。ここに問題が起これば世界の均衡が崩れてしまう。
遥か昔から普通に存在した仕事。現代で言うところのエッセンシャルワーカーである死神たちの境遇を皆で考える時代が来ているのだ。
と、いう感じでその記事は締めくくられていた。

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