空想お散歩紀行 ヒーロー2.0
かつては人の手で行われていたことを道具が肩代わりして、さらに機械が自動でそれを行うようになって数百年。その流れは未だに衰えることはない。
むしろ流れは加速して、今まで人の手が介在していた機械の操作も、AIが代わりにやってくれる。
人々はより便利な未来を期待と、自分たちの仕事が無くなる恐怖を同時に味わっていた。
そしてここにも、その後者の思いに浸されている者たちがいた。
『本部へ連絡。75番通りでひったくりの現行犯を確保。至急引き渡しの手続きを要請する』
淀みなく流暢に発せられるその言葉は、しかし完全な人間とはやはり違うことがはっきりと分かる。だがそんなことは今や気にする人はあまりいない。
周りの店舗や街灯の光を、その人の形をしたものは微かに反射しながら、地面に一人の男を押さえつけていた。
そしてその様子を10メートル程離れた所から見ている男がいた。
彼の表情は悔しそうな、だがそれだけではない複雑な色をしていた。
犯罪者確保の現場を見続けている彼は、今組み伏せられている男の側の人間ではない。その逆の立場の人間だ。
ほんの10年ほど前まで、街の平和を守ってきたのはヒーローと呼ばれる者たちだった。
事の大小を問わず、困っている人、泣いている人がいれば、どこからともなく現れて助けてくれる、皆の憧れの存在。そんなヒーローたちがこの世界には大勢いた。
しかし、時代は変わった。
今や、街の至る所に特殊金属で造られた人形が配置されている。
犯罪の通報が入ると、AIにより即座に現場に一番近い人形に指令が渡る。その時の状況に応じ、特殊金属は最も適した形にその身体を変形し駆けつけ、最も効率的な対処をするのだ。
だから、人間のヒーローが現場に駆け付ける頃には、大方の事態は収束していることがほとんどになってしまった。
これにより多くのヒーローが失業を余儀なくされた。不満はあった。だが、より速く犯罪が片付くことに彼らが反対できるわけがない。
そして今、目の前でひったくり犯が新しい時代のヒーローに取り押さえられている現場を見ている彼は、自分が着ているヒーロースーツが何だか滑稽に思えて仕方なかった。
時代は、誰を気遣うでもなくただ流れていく。ヒーローの在り方も例外ではなく、その流れに抗うことはできない。
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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5
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