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空想お散歩紀行 いらない物売ります

「本当のあったのか・・・」
俺は半信半疑のまま、その噂の真相に辿り着いたことで正直気持ちの整理がまだついていない。
今目の前にあるのは、PCの画面に映る一つのサイト。
そこには数々の品物が並んでいた。
いわゆるフリマサイト。自分の持っている物で要らなくなったような物を出品してちょっとした小銭を稼ぐという、今では当たり前に認識されているものだ。
だが、このサイトは事情が違った。
「すげー・・・これってあの美術館のじゃん・・・」
俺は食い入るように画面を眺め続けていた。
その理由は、そこにある品の数々。
それらは全て、盗品だった。
盗品専門フリマサイト。
世の中から盗まれた物のみが出品されるサイトがあると俺が知ったのはつい数日前。
俺は一人の怪盗としてデビューし、それなりに実績を積み上げていった。
そしたら突然『ギルド』を名乗るやつが現れて、このサイトのURLを伝えてきたのだ。
このサイトに入るためには、一定の条件があり、俺は知らぬ間にそれをクリアしていたらしい。
つまりこのサイトに出品して売買できるのは限られてた連中だけということだ。そんじょそこらのコソ泥レベルでは話にならないのだ。
そのためか、ここにある盗品はどれも質の高い物ばかりだった。
宝石や貴金属、美術品、機密文書、有名人の私物。どれもこれも盗むためには高いレベルが要求される物。
これだけでもすごいサイトなのだが、ここにはもう一つ変わったルールがあった。
それは、ここで買った物は、自分が盗んだことにしてよいというものだった。
つまり、俺が今目にしている、とある富豪の屋敷にあった、世界に一つしかない幻の宝石。それを購入したら、それは俺が盗んだことになるのだ。
怪盗、盗賊、大泥棒。盗みをするやつらの呼び方がいろいろあるように、盗む動機もまたいろいろだ。
大抵のやつは金目的だが、中にはコレクター魂が強いやつもいたり、盗むという行為自体に価値を見出していて、盗んだ物にはさほど興味がないやつもいる。
きっとこのサイトに出品しているやつらもいろいろな事情があるのだろう。
「うわ、あの有名人もここに出品してんのか」
そこには、世界中を股にかけて活動し、盗めぬ物はないとまで言われている大怪盗の名前があった。
他にも、名前は聞いたことはないが、やたらと出品しているやつもいる。ここに品を出すことが自分の力の証明と言わんばかりだ。
「こんなサイトがあったなんて、この世界も奥が深いな・・・」
何十ページにも及ぶ、その盗品の出品リストを眺めながら、俺は思った。
ここにある物を買えば、それは俺が盗んだ物になるのだが・・・
「それは・・・怪盗としてのプライドが許さない気がする」
そう分かっている俺がいる一方で、きらめくお宝の数々に心の中の俺がぐらついているのもまた気付いていた。
結局その日は、何かを買うことはなかったが、一晩中そのサイトから目を離すことができなかった。

https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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