空想お散歩紀行 どこの世界でもよくある話
平日の昼下がり。空高く上がっている太陽は夏よりもその力を弱め、木陰に入れば風の涼しさの方が肌に感じる季節。
そんな空気の中、一軒のオープンカフェのテラス席では3人の老人がお茶を飲んでいた。
しかし、その表情はどこか険しく、周りの穏やかな風景とは相容れない何かを醸し出していた。
「まったく、最近の若い連中ときたら・・・」
話の内容はいかにも分かりやすい若者への不満だった。いつの時代も決して変わることのない話題の一つである。
「ワシたちの若い時にはもっと情熱があったのに、今の若もんはそれが感じられん」
「まったくだ」
一人の老人の言葉に、残りの二人も頷くばかりだ。
「何で、今の若もんには情熱がないんだろうなあ」
「たぶん、情熱を注ぐだけの夢がないんじゃろう」
別の白いヒゲをたくわえた翁が言う言葉にまたも残りの二人が頷く。
「そうじゃのう。今どきの連中も頑張っとるとは思うんじゃが、やっぱり夢は大きく持って欲しいもんじゃ」
3人はそれぞれ軽く空を見上げる。まるでそこに自分たちの思い出があるかのように。
「ワシらの若い時は皆、世界征服くらいの夢は持っとったもんじゃが」
「ああ、まったくだ」
「ヒーローたちとの戦いも実に熱いもんだった・・・」
お互いに過去を懐かしむ彼らは、かつて世界を征服せんと日々戦っていた闇側の者たちだった。長い戦いの末、今では現役を引退し、余生を穏やかに過ごしている。
「今の若い衆には、世界征服はあまり興味がないみたいだ。どちらかと言うと自分の欲望のことばかりで、小さくまとまってるようにしか見えん」
「まったく、もっと悪としての自覚を持って欲しいもんだ」
「じゃが、それは光側も同じらしいぞ。最近は世界平和を目指すヒーローも少なくなっているらしい」
「ワシたちの若い頃の光側のやつらは、当時は憎らしかったが、今思うと敵ながら天晴なやつらばかりじゃったなあ」
「昔は良かったのお・・・」
明るい陽射しの下で、3人は同時に飲み物をすする。今も世界のあちこちで、光と闇の戦いは繰り広げられているが、彼らはそこにかつての『熱』を感じ取ることはできなかった。
「もっとドでかい戦いが始まらんもんかね」
そう願う彼らだったが、少なくとも今この瞬間はそんな気配は欠片もなかった。
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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5
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