空想お散歩紀行 第2の人生は別の世界で
人生というのはいつだってままならなかった。
たまに先の予測が当たることもあれば、まったく外れることもある。
でもそれが普通なのだ。いいこともあれば、悪いこともある。いいことだと思っていたことが実はそうでもなかったりするし、不運だと思っていたことが、実は自分にとって必要なことだったりする。
でもそういうものは後になってから分かることで、その瞬間にはなかなか気づかない。
けれども、人生の終わりに、まあまあ良かったのではないかと思えれば、それが幸せなのだろうという考えがいつしか自分の中に座っていた。
そして事実、まあまあだったなと思いながら、私は自分の人生に幕を閉じた・・・と思ったのだが。
今私は見知らぬ土地にいる。いや、見知らぬ土地どころか見知らぬ世界にいる。
自分の手を眺める。皺の無い張りのある血色のいい手だ。鏡を見ると、そこには20代後半くらいの自分がいる。一番肉体に活力があった時代だ。
私は少し前のことを思い出す。
それは、一つの机を挟んで私とワイシャツにネクタイを締めた男との、いわゆる面接の場面だった。
今思えば、あそこが天国と呼ばれる場所だったのかもしれない。
その男が言うには、私は元の世界で死んで、そしてこれから異世界に転生してもらうとのことだった。
その時思い出したのは、生前生きていた世界で若者たちの間で、そういう異世界転生というジャンルのお話が流行っているということだった。
過去の偉人が現代に甦る。現代の人間が全く違う世界へ行き活躍する。
細かな違いはあれど、大体そういう話だったはずだ。
でも所詮は物語。その類の話は、あくまで選ばれた主人公だけのものだと思っていた。
だが、私に面接をした男は言った。
私が生きていた世界は、実は一種の人材育成場所で、そこで死んで「最初の人生」を終えた人間は「全て」、それぞれの人生で得た経験、知識、技術を活かせる、次の世界へと転生させられるとのことだった。
そして、無数にある世界の中から一つが選ばれ、私は今ここにいる。
事前に話を聞いていたが、今の世界に来てはっきりと分かったことがある。
ここには娯楽というものが、かなり乏しいのだ。
私は生前、ゲーム会社に勤めていた。まだゲームという娯楽が世に出て間もないくらいの頃から、自分の人生をそれに捧げた。
私に求められているのは、この世界にエンターテイメントを作り出すこと。
まだ白紙に近いこの世界に、新しい価値を創造すること。
私の頭と心には、自分の人生の全てが入っている。そして体は若返っている。
歳と共に消えていったと思っていた何か熱いもの、そう、野心とでも言うべきものが今再び、この体の中で鼓動を打っている。それを私ははっきりと感じていた。
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