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空想お散歩紀行 スクリーンのこちらとあちら

この世界と異世界との境界は意外にも至るところにある。
それは橋だったり、扉だったりする。
至る所で簡単にこちらとあちらが結びつく。
そしてそこから色々なものが、あちらに行くこともあれば、こちらに来ることもあるのだ。
その中には良いこともあるにはあるが、得てして厄介ごとの方が大勢である。
「アラート反応!レベル3!場所はスクリーン5、ゲート展開まで160秒!」
けたたましい電子音声が携帯端末から流れる。
それを受け、急いで現場へと向かう一人の青年。
辿り着いたのは、部屋の正面に巨大なスクリーン。そして階段状に客席が300程並んでいる。
映画を上映するための部屋だった。
いわゆるシネコンと呼ばれる、いくつものスクリーンが集まった施設で、ここも、とある大型複合商業施設の中にある映画館だ。
しかし今は夜。昼間は多くの人が入れ替わり立ち替わりするこの場所も、現在はただ椅子が並ぶだけの静かな空間だ。
本来なら人などいないはずの時間帯のこの場所に青年は足を踏み入れた。と、同時に、
「遅い」
薄暗い空間の中によく見ると、彼とは別にもう一人、男が立っていた。
「す、すいません」
即座に謝ると、青年は自分の持ち場へとつく。
二人とも同じような出で立ち、そして腰には剣を差していた。
「どうだ?ここには慣れたか?」
先に到着していた先輩にあたる男が、青年に問いかけた。
「え、ええ、だんだんと。それにしても、話には聞いてましたがやっぱりこの国はすごいですね」
彼らが所属する組織は、異世界から来る、こちらの世界に悪影響を及ぼすものたちの対処だ。
それは映画館のスクリーンをゲートとしてやってくる。
異世界とはどこかの神が作り出すものばかりではない。
人が作り出す物語もまた、立派な異世界の一つなのだ。それはその物語を作った本人ですら気付いていないことがほとんどだ。
「ボクの国でも映画は盛んですけど、日本は別格です。さすがアニメ大国」
人が作り出す物語は様々だ。特にこの日本ではアニメ映画が一番強い力を持っている。
物語の中でモンスターやら悪魔やら、人間の力を超えた異形が山のように出てくる。
それらが何かのはずみでこちらの世界へスクリーンを通してやってくるのだ。
「相手がどんな映画だろうと、やることは変わらん。ただ倒すだけだ」
先輩の男がそう言った時、スクリーンが青白い光で点滅し始めた。
「・・・来るぞ」
鬼が出ても蛇が出てもおかしくない。二つの世界が繫がる瞬間がいまここにあった。

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