空想お散歩紀行 ザ・フォーチュン
耐久レースというものがある。
長距離、長時間を掛けて行われるもので、選手の身体能力もさることながら、何よりも精神力が試される過酷なレース。
今、一つの耐久レースが山場を見せていた。
このレースは選手が自分の身一つを頼りにゴールを目指す。
レース期間はおよそ半年にも及ぶ。
その間、大地を走り、山を越え、川を越え、ただひたすらゴールに向かって進み続ける。
スタート時にいた大勢の選手も、時間が進むごとにどんどん減っていく。
怪我をする者、心が折れる者。立ちはだかる自然と己の心の弱さに挫けぬ者だけが、前へと進む。
人々はそんな選手一人一人のドラマに心打たれながら、このレースを見守っている。
既にレース開始から4ヵ月が過ぎようとしていた。
例年なら、この時点で選手は50名以下になっているのが普通だが、今年は現時点でまだ100名近くが残っていた。
しかも、ここまで何度もトップが入れ替わるという、全く先が見えない大混戦のまま、クライマックスに突入するということで、現地で応援する観客も、自宅でネット中継を見ている観客も否応なしに、その熱に巻き込まれていた。
今年の元日、一月一日にスタートした、この「福男選び耐久レース」。
今年一番の福男を決めるために、一年の半分を使うという暴挙とも言える行事。
しかも、仮にこのレースで優勝したからと言って、残り半年で何かいいことがあるかどうかは分からない。
だが、男たちは挑戦する。そこには将来の損得などというものは無い。
ただ、自分が一番早くゴールに辿り着くという、その瞬間のみの栄光があればいいのかもしれない。
残り2ヶ月。レースのラストを予想できる者はまだ誰もいない。
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