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空想お散歩紀行 切り取られた世界の味

沈んでいく太陽。オレンジ色の塊が空と海の二つを同じ色に染め上げる。
「綺麗ね」
心地よい潮風が髪と戯れながら吹き抜けていく。
その女が手に持っているのはカメラだった。
黒く大き目のボディは今どきのコンパクトなカメラとは真逆で、どことなく威厳のようなものさえ感じさせた。
ファインダーを覗き、もう一枚夕日に向かってシャッターを切る。すると、
「悪くはねえんだけどよ・・・」
どこからともなく声が聞こえてきた。
それは女のものではない。低くざらついたその声は今の風景の中にあってはあまりにも不自然だった。
「文句言わない。ここまで来るのに結構掛かったんだから」
女は何事でもないように、その声に返事を返す。だが、周りに人はいない。その言葉が向かう先は、彼女が持つカメラだった。
「文句言ってるわけじゃねえよ」
「言ってるでしょ」
彼女が手に持つカメラはいささか特殊だった。
そのカメラにはいわゆる悪魔が憑りついていたのだ。
その悪魔はカメラで撮った画をエサにする。そして女は写真家だった。至高の一枚、至高の一皿を手に入れるために二人は共に行動をしている。
「お前の撮る食事は悪くねえよ。だけどよ、風景とか動物とか、綺麗なもんばかりだと飽きるんだよ。味付けがお上品すぎるって言うかさ。もっと火災現場とか、交通事故現場とか人の悲鳴が聞こえてきそうなモンくれよ」
「いやよ。趣味じゃない」
彼女が悪魔と組んでいるのは意味がある。
このカメラは光の量の調節など、撮った被写体を自動で最上の写真として仕上げてくれる。
素材である被写体をカメラの悪魔が調理してくれるというわけだ。悪魔本人にその意志はないのかもしれないが、自然とそうなっている。
「で?明日は何を食わせてくれるんだ?」
「明日はこの近くの山の中にある滝に行くわよ。知る人ぞ知る隠れスポットなんだから」
「・・・そりゃ高級そうなこって。あ~あ、もっとジャンクな味付けのもんが食いてーな」
二人の道のりは続く。最高の画と味を求めて。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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