空想お散歩紀行 災い封じたる城と洗濯物
しばらくどんよりとした天気が続き、久しぶりに晴れた朝。
ここぞとばかりに待機していた、洗濯物たちが我先にと争うかのように、日光を求めて風の中へと飛び出して行く。
「よし、こんなもんかな」
一人の少女が洗濯物を干し終え、その向こうにある空へと目を向ける。
雲一つない青空に自然に笑みが浮かぶ。
彼女が立っているのは石造りの古びた城の一角。
遠くには新緑が瑞々しく溢れる山々と、そのほとりに鏡のように光を反射する湖が広がっているのがよく見えた。
地面から離れたここは、風通りもよく洗濯物には最適だ。
今聞こえるのは、洗濯物が風になびく音と鳥の声くらい。
他に人の声はしない。
なぜならこの古城に人は彼女ともう一人しかいないからだ。
ここから山を3つ越えた先にある街が彼女の生まれた所で、しかもその土地を治める王族の娘である。
なのに彼女がここで暮らしているのは理由があった。
彼女が産まれる直前、預言者から産まれてくる子供は呪いと災いをもたらす存在だと宣託をされたからだった。
だから産まれた直後に彼女はこの城に追いやられたのだった。
「お洗濯干し終わりましたか?」
「うん、お茶にしよう」
彼女の後ろから声を掛けてきたのは、一人の黒髪の女性。
一応姫である少女に対し、礼儀を欠かさずに接する彼女は、姫が産まれここに幽閉される際、一緒に付いてきた者だ。
当時18歳。彼女の父親が大きな罪を犯し、罪人の娘ということで、ちょうどいいからという理由で世話役を押し付けられた。
今では、少女にとって彼女は、母であり姉であり友人のような存在である。
「では、こちらに用意してあります」
洗濯物がなびく日当たりのいいテラスの片隅にテーブルを出す。
世話役の彼女が慣れた手つきで指を動かすと、お茶と簡単なお菓子が運ばれてきた。
それらを運んできたのは、土と木で作られた子供くらいの大きさの人形である。
彼女が父親から受け継いでいた、人形躁術の魔法だ。
人里から遠く離れた古城で、一応姫と従者二人のお茶の時間が始まる。ここには二人と数体の人形がいるだけ。
でも、ここにも日常はある。そして二人はそれを楽しんでいた。
白い洗濯物は風に逆らうことなく、ただ自然とその流れに身を任せている。
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