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空想お散歩紀行 全てをおいしく頂きます

あらゆるものには魂が宿る。それは人や動物などの生き物にとどまらず、物も例外ではない。
特にこの国では、万物に神が宿るという考えが太古からあり、人や動物、物質がある世界と神の世界は地続きだ。
そして魂があれば、想いがあり、想いがあれば、それは様々な形を成す。
「こりゃまた、ずいぶんヘビーな相手ね」
現在時刻、夜。生物の肉体は眠りに入るかもしれないが、その代わり想いは膨れ上がる時間。
彼女、相良ミノリは現在17歳の高校2年生。
趣味:食べ歩き。座右の銘:『生きるために食べるのではない。食べるために生きるのだ』
特技:料理全般。そして、霊視。
今彼女の目の前に現れたのは、おどろおどろしい姿をしており、言葉は発せずとも抱いている恨みの想いははっきりと彼女に伝わっていた。
だがその歪な形も、よく見るとある物が原型となっていることに気付く。
「ケーキ、苺のショートってとこか。どメジャーね」
彼女が見ることのできる霊は、全て食べ物である。
賞味期限を迎えたり、古くなったという理由で、食べられることなく捨てられてしまった物。一度も手を付けられなかった料理。食べ物としての使命を果たすことなく、まずいとさえ言われなかった、そんな食べ物たちの想いが形となった悪霊。
彼女は、そんな霊たちの祓い方を知っている、いや、本能で最初から知っていたという方が正しいかもしれない。
「マシマシギガ盛りラーメン食べてきたばっかだけど、ちょうど甘い物がほしいと思ってたのよね」
彼女は食べ物の霊を見ることができる。そしてもう一つ特異な力を持っていた。
それは、霊食。
「デザート、いただきます」
目の前の怨念に彼女は一切怯むことなく、走り向かっていった。

現在時刻、夜。肉体も魂も共に眠り休む時間。
「ごちそうさまでした」
パンッ!と両手を合わせる彼女の姿には、紛うことなき食への感謝が現れていた。
彼女の背後で、小さな光の粒のようなものがいくつも、風に乗るように流れて空へと昇っていく。
それは安らぎに満ちた何かが、静かに消えていくように見えた。

https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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