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マラソンの足のつり対策(前編)

先日、マラソンでの足の攣りについて書きました。

いままで一般の方に足の攣りの原因を聞くと、
「水分不足だ!」
「塩分が不足している!」
と答える方が多くいました。

そして対策を聞くと
「芍薬甘草湯」
「マグネシウム」
という答えがほとんどでした。

それもあるのですが
「他にも色々な原因があるよ!」
足の攣りの複雑さ、難しさを知ってもらうために先日、Noteに書きました。
https://note.com/takuyanorth/n/n58912fc6626d

でもそれだけでは対策を立てるのが大変と思います。

そこでそのNote内でも少し触れましたが、足の攣りの原因の多様性と向き合って調べて、そしてトレーニングをして、結果克服した方のケースレポートを紹介します。

1.患者(アスリート)の紹介

紹介するのは2010年のカリフォルニアの文献です。
患者は43歳の男性のトライアスロンの競技者で、身長 180.5 cm、体重 66.9 kg、トライアスロン歴12年です。
最近1年はすべてのレースで右ハムストリングの攣りのため失速してしまったとのこと、目標はハーフアイアンマンを足を攣ることなく4時間30分以内で完走とのことですから、あまり速いアスリートではなさそうです。

1-1.最初に相談したのは4年前、そして治療は・・・

実は最初から適切な治療を受けられたわけではありません。
最初に医療機関で相談したのは4年前、競技中に左右のハムストリングが攣ってしまうために受診しています。その時は理学療法士にアドバイスをうけ、ハムストリングスのストレッチとマッサージの治療を受けました。ですが、足の攣りの頻度や強さは変わりませんでした。そしてさらに、水分・塩分の摂取量を色々と変えてみましたが、効果がなかったとのことです。

この文献の著者のところに現れた時は、彼は以前にアドバイスされたように股関節屈筋、大腿四頭筋、およびハムストリングスのストレッチを継続していました。

1-2.患者の分析(難しいので飛ばして読んでもOKです)

こむら返り
トライアスロンのランニングの中で、下り坂を走ったり、スピードアップしたときに、右ハムストリングが攣りをおこすとのことでした。

病歴の聴取
手足のしびれや膀胱直腸機能障害はなく、整形外科的な疾患はないと思われました。そしてその他の疾患(糖尿病、高血圧、癌や感染症)を疑う症状はありませんでした。

神経学的異常の有無
腰椎、股関節、仙腸関節の能動的/受動的可動域の評価をしましたが、問題ありませんでした。よって腰椎神経根障害、 下肢神経可動性障害、腰椎椎間関節機能障害、仙腸関節関節機能障害、股関節機能障害はといった神経学的疾患はなさそうです。

ハムストリングの検査
右側の大腿二頭筋の長頭中央部と半腱様筋の触診で圧痛が認められた他、両側のハムストリングの伸展制限がみられました。
股関節伸展強度は左側 35.5 kgで右側 35.6 kg(弱い!)、膝の屈曲強度は左側26.1 kg で右側27.2 kgでした。測定中に右のハムストリングが攣りを起こしたとのことです。

歩行~ランジ~ステップダウン検査
ランジとステップダウン検査において、股関節の内転と過度の内旋がみられました。これは右の方が顕著だったようです。右の時には体幹の傾きまでみられたようです。

治療前(左)と治療後(右)のステップダウン検査を行っている様子

筋電図
そこで実際にハムストリングの筋電図を行ってみると、ランニングの時に右足は着地から蹴り出しの時、過度に強い筋収縮が起こっていることが分かりました。そして走行時のハムストリングの過度に収縮している時間も、走行時間の48.1%と長かったのです。

1-3.検査結果から考察

・ハムストリングの筋力は正常だが、殿筋の筋力が弱く股関節伸展強度が低下している。
・(その結果)ランジやステップテストで、過度の股関節内旋と内転をしていた。
そこから考察すると、ハムストリングは殿筋はランニング時において協調関係にあるので、大臀筋の弱さや神経筋制御の障害がハムストリングに過度で長時間の負担をかけ、足の攣りに繋がると考えられます。

要は足の攣りの原因は、水分不足でも塩分不足でもなく、骨格筋疲労理論によるものと考察をしたわけです。

1-4.治療

治療は8ケ月にわたり、3段階に分けて行われました。
1段階目は筋肉の使い方についてのエクセサイズで、孤立した筋をうまく使うための非体重負荷運動(8~15回の繰り返しを3セット)。
2段階目は筋肉肥大に焦点を当てたエクセサイズで、体重負荷運動(4~8回の繰り返しを3~5セット)。
3段階目は筋持久力に焦点を当てたエクセサイズで、動的トレーニング(12~20回の繰り返しを2~3セット)。

それを1日1回行うよう指示されました。トレーニングには1日約20分程度かかったそうです。

1段階目(0~4週)

一段階目のエクササイズ: (A) ハマグリ運動、(B) うつぶせでの股関節伸展、(C) 四足歩行の運動

A:ハマグリ運動と名付けられたこの運動は、足を合わせて股関節と膝を45° 曲げた姿勢をとります。そして膝を上下に持ち上げるよう動かします。このとき体幹や骨盤が後傾しないようにします。これは股関節の外転と外旋の運動です。

B:うつ伏せで、お腹の下に枕を2つ置きます。片方の膝を 90° に曲げて 、ハムストリングを使わないように壁につけます。後ろに蹴りだすように大殿筋を収縮させます。等尺なので足は動かしません。これを10秒間×10回行います。

C:股関節と膝を 90° 曲げて、腰椎または骨盤の回転なしに、股関節の外転・外旋・伸展で四足歩行を行います。

2段階目(5~16週)

二段階目のエクササイズ: (A)ダイナミックサイドスクワット、(B)スターエクスカーション、
(C)ステップダウン、(D)前方/後方ランジ

一段階目を4 週終了して、体重で負荷した運動に進みました。すべての運動中は、上前腸骨棘(骨盤の前の出っ張ったところ)と膝が、足の第 2 趾の上に位置する姿勢であるニュートラル下肢アライメント(NLEA)を維持するようにしました。

A:ダイナミック サイドスクワット・・・Thera-Bandを大腿部の真ん中あたりに巻きます(両側の股関節外転と外旋に抵抗するために使用)。そしてNLEA を維持しながら、膝関節を45度曲げたスクワットの姿勢をとります。そして腰を外転および外旋させながら10m歩きます。

B:スター エクスカーション・・・軸足を片足スクワットの姿勢として、反対側の足をつま先を5方向 (前方、前方斜め、外側、後ろ斜めと後ろ)に伸ばし、維持します。スクワットの深さは、NLEA を維持する患者の能力によって決定します。

C:前進ステップダウン・・・5cmの台からステップダウンを行います。動きのなかの降りるところと、登るところでNLEAの体勢で行います。適切な股関節のコントロールが出来たら、5cmずつ台を上げて20cmの高さまで行いました。

D:Thera-Bandを大腿部の真ん中あたりに巻いて、前方および後方のランジをします。ランジの際に、膝を75度の深さまで曲げ、膝が足を越えないようにしました。鏡を利用して、安定した骨盤位置を維持するようにしました。

3段階目(17~24週)

三段階目のエクササイズ:
(A)両足の垂直/前方ジャンプ、(B)片足の垂直/前方ジャンプ、(C)振り出し運動の確認

2段階目までのトレーニングを受けたあとは、着地やジャンプの際にNFEAの姿勢になっていることを、鏡を使って都度学習しました。3段階目では片足や両足の前方ジャンプ、ランニングの蹴り出しの際の殿筋群の使い方のトレーニングを行う目的もあります。

A:NLEA を維持しながら、最大限の力で両足垂直ジャンプをして、また深いスクワット大勢で着地します。そしてさらには、両足の前方ジャンプを10m行いました。

B:次に最大の力で片足垂直ジャンプを行い、NLEA を維持しながら着地しました。そしてさらには、片足前方ジャンプを10m 行いました。

C:最後はランニングの足の振りをイメージしながら、脚を動かします。股関節は10度の伸展から40度の屈曲まで動き、膝は20度の屈曲に保たれました。ハムストリングの過度な働き、大殿筋の働きを促すために大殿筋の収縮を都度握って確認しました。ピッチはトレーニング中、徐々に増加しました。

1-4.結果

以上のトレーニングを終了したあと、目標としていたハーフアイアンマントライアスロンを、足の攣りなく3レースも完走することができました。そして自己ベストに近いタイムを出せました。

トレーニングの効果をみてみると、右股関節伸展強度が35.6→54.7kg に増加、左股関節伸展強度が35.5 から46.8kgに増加していました。結果ハムストリングも柔軟になったように見えました(横になって足を挙げると、真上に挙がるようになりました)。そして歩行、ランジ、ステップダウンの歩様も改善されました。
結果走行時のハムストリングの過度な収縮時間も48.1%から36.4%に減っていました。

2.言いたいことは

今回はトライアスロンの選手のケースレポートでしたが、ランナーも足の攣りの原因は多種多様です。
毎回毎回足の攣りをおこす、何をしてもダメ、いつも片側、筋トレにがて~、などの場合は、足の攣りの原因は骨格筋疲労理論かもしれません。

問題なのはこのケースのように、攣るところ(右ハムストリング)と、筋力が低下したところ(殿筋)が異なるという事です。
ハムストリングが攣るからって、ハムを鍛えればいいというわけではありません。同じようにふくらはぎが攣るからって、ふくらはぎを筋トレすればOKというわけではないかもしれません。

自分の筋力の弱いところを把握し、走るフォームなどを参考に克服しないといけないわけです。


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