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僕はたしかにここにいた

ひさしぶりに高知を訪ねた。

21歳から27歳まで、何者でもない学生として過ごした第2の故郷。

あの頃にはなかった道路が整備され、馴染みだった地元店の多くは全国チェーンにとって代わられ、地方都市として割と似通った街並みが目の前に広がっていた。

母校・高知医科大学は、僕らの卒業後、高知大学の医学部として吸収合併され、校舎も新設されていた。

僕はたしかにここにいた。

でも「今」のここは、「あの頃」のここじゃない。


ギャップというのか、へだたりというのか、
つい、あの頃との「違い」ばかりが目についてしまう。

僕はたしかにここにいた、、、、よね???

ちょっと複雑な気持ちを抱えながら、気づけば多くの時間を過ごした「あの場所」に向かっていた。

あの場所ーーーーそれは運動部が主に使うトレーニング室だった。
祭日だったため中に入れなかったので、外から覗いてみた。

とても狭かった部屋が2倍になっている。
新しいマシンも導入されている。

あの頃、「医大生といえばお勉強はできるけど、スポーツは苦手」のイメージがあった。(大学相撲がテーマの映画『シコふんじゃった』に出てくる最弱の大学は医科大だ)

実際、医学部生は医学部生を相手に試合をする、が当時の「ふつう」だった。

だけど僕は大学の部活には入らず、極真カラテの道場に通い、一般の人たち相手に試合をする道を選んだ。

戦いにおいて「医学生だから手加減してください」はない。
強さの追求において「医学生だから弱くていい」もない。

単純にそういう理由からだった。

「大学の運動部に所属してないやつ」がいちばんトレーニング室に入り浸っている、そんな珍しい状態が数年続いた(笑)

その狭さゆえに、自然発生的な交流が生まれた。

 ラグビー部やサッカー部の人たちともウエイトを補助しあったり、トレーニング情報を交換したり。同期のサッカー部員、平澤くんは「怪我をしないために僕は身体を鍛える」と話していて、当時の僕(当然威力を上げることしか考えてない)には彼の発想がとても新鮮だった。

 極真カラテ同好会の同期、鞆くんとも一緒にウエイトをやった。スピード重視スタイルの彼は、比較的軽めのバーベルをものすごいスピードで動かしていた。その後、カラテからサーフィンに転向した鞆くんは、サーフィン用のトレーニングをみせてくれた。彼はいつも考え抜いた練習をやっていた。同好会に賛同してくれた同期、後輩とも、とにかく汗を流した。

僕の試合前、トレーニング室で後輩がミットをもってくれたこともあった。僕はひたすらミットにパンチ、キックのコンビネーションをバシン、バシン、ダダダダ、バシン、と叩き込んでいた。

すると2階から軽音楽部の金森くんはじめ、数名の部員たちが降りてきて。

「リズムが面白いから見学させて欲しい」

と言い出した。この時、はじめて格闘技と音楽が融けあった気がした。


 入学前にテコンドーをやっていた同期の李くんは、僕の試合前、わざわざ練習につきあってくれたことがあった。僕よりもリーチがあって、カラテにはない距離、軌道で蹴ってくる彼の蹴りは、ディフェンスしづらく、かなり有効な負荷となった。

こんな感じで、トレーニング室は、あらたな化学反応が生まれる、面白きサロンになった。

僕にとっての大切な居場所。

いつしか僕はバイトをして貯めた小遣いで買い集めたバーベル、ダンベル、ベンチプレスの台を、アパートの自室と医大のトレーニング室に置くようになった。試験前、実習中などは「大学に泊まり込み」みたいなこともしょっちゅうあったので、どこにいても自分に必要なトレーニングができるように環境を整えた。

嬉しいことに、僕が置いたバーベルやダンベルを、大学の部活のみんなも使ってくれるようになった。

「二重作さん、ダンベルありがとね」

「卒業の時には、家にあるのも寄贈しますね」

そんな会話を交わしたのを今でも覚えている。

広く、綺麗になったトレーニング室だけど、次々とあの頃の想い出が甦ってきた。ほとんど忘れかけていたものも含めて・・・。

と、追憶の最中、ついに僕はみつけてしまった。

在学中、そして卒業時に置いていったあの頃のバーベル、ダンベルが、今のトレーニング室にゴロゴロと転がっていたのだ。

「わ!あったー。まだあった!」

僕の「あの頃」を支えてくれた重りは、1999年の卒業以降、2024年の今日まで、後輩たちの身体づくりにずっとずっと貢献してくれていた。

容赦なく時代は移り変わる。

だけど人間の根源的な向上心、そしてあの場にそっと置いてきた僕の気持ちは変わらないことに気づかせてもらえた。


僕はたしかにここにいた。
強くなりたい、激烈な感情と共に。

追伸:僕のプロフィールはこれからもずっと「高知医科大学」だ。Amazonにも刻み続ける。












そこに置いた気持ち

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