![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/151222565/rectangle_large_type_2_b24f3957de3f8adcecd8092da849abd0.jpeg?width=1200)
バックステージという学び舎
父として、僕が子どもたちにできることは何だろう?
究極的には2つしかないんじゃないか、と僕は考えている。
ひとつは、「やってみせる」。
もうひとつは、「みせてやる」。
なんか言葉遊びみたいだけど。これ、かなり本気でそう思ってる。なぜなら僕の父、母も、そうしてくれたから。
1990年、夏。17歳の時、アメリカでカラテの試合をしたときのこと。
両親は応援に来てくれた。2週間、日本語の通じない異国での滞在。時間も、コストも相当かかっただろうに、両親は「やってみせて」くれた。そして僕にアメリカを「みせて」くれた。
それまでの僕にとって、アメリカは画面の中だった。レコードのジャケットの中だった。でもこの時、アメリカの中に僕が入った。僕は2週間、広大なアメリカの景色の一部になった。
全く違う世界がある。今の環境だけが全てじゃない。
10代の僕にとって、その後を大きく影響する経験をさせてもらった。
さぁ、こんどは僕の番だ。
「やってみせる/みせてやる」を実行しなければ。
![](https://assets.st-note.com/img/1724021231487-gT9JpW6KJn.jpg?width=1200)
そんな意識で、僕は16歳になったばかりの長男と一緒にビルボードライヴTOKYOに行った。
1970年にデビューして以来、半世紀以上活動しているソウル/ファンクバンド、タワー・オブ・パワーの来日公演だ。
シーラEやプリンスと仕事をしていたサウンドエンジニアの友人、ACEがタワー・オブ・パワーに合流したころ、ACEがバンドに僕を紹介してくれて。
2007年頃から来日時に彼らのサポートを行うようになった。
![](https://assets.st-note.com/img/1724020998752-mtEJ6Y2hpn.jpg?width=1200)
ちなみに仕事面において超厳しい(そして滅多に褒めない)プリンスはACEのサウンドに”Perfect”と言ったことがある。そのあたりの話も、またの機会に。
![](https://assets.st-note.com/img/1724054334084-hsqNL8i9UR.jpg?width=1200)
ライヴは言うまでもなく圧巻だった。
打ち込み、サンプリングはもちろん、コンピューターの音も一切無し。
全ての音が生演奏、これぞリアル・ミュージック。
「タワーは演奏のレベルが高いから、安心して(サウンドエンジニアの)仕事ができる」
かつてACEがこう言ってたのを想い出した。
![](https://assets.st-note.com/img/1724198248967-6web7lfX1U.jpg?width=1200)
ファーストステージが終わると、タワー・オブ・パワーのメンバーは僕らをバックステージに招待してくれた。
いつもどおりメンバーの体調を聞き、いつもどおり処置やアドバイスをし、いつもどおり、ほんのちょっと医学的なサポートさせてもらった。
格闘技医学としてやってきた「ハードワーカーのための医学」が、いつも聴いてるミュージシャンたちの役に立つ。少しでも恩返しできることが嬉しい。
"Thank U, Dr.Takki."
いつもどおり、みんなが感謝の言葉を述べてくれる。
お礼を言いたいのは僕の方だよ、という気持ちを込めて、
"Thank U 4 your wonderful music"
いつもどおり、お返しする。
コロナ禍が明け、数年ぶりの再会。途中、バンドメンバーが引退したり(残念ながら他界したり)もあるけれど、それでも、いつもどおりのポジティヴな雰囲気に溢れている。
変わり続けても、変わらない。ホンモノのソウル。
あああ、なんという安心感。
久しぶりに僕はホームに帰ってきた気がした。
いつもと違うのは、ただひとつ。長男が一緒に来てくれたこと。
タワーのみんなは、長男の登場を歓迎してれた。
「さぁ、乾杯しよう。何を飲む?コーラでいいかい?」
「音楽好き?そいつはいいね!楽器やってる?」
「いくつになったの?よく来てくれたね!」
みんな積極的に長男に話しかけてくれる。
いつしか長男の表情から、緊張の色が消えていく。
![](https://assets.st-note.com/img/1724022937933-Q9Q0LVs8rY.jpg?width=1200)
リーダーのエミリオは、自らのスマホにある画像を僕らに見せながら、
息子さんやご家族のこと、
高校生のアマチュア時代にバットマンを演奏してたこと、
ジェームズ・ブラウンに初めて会った時のこと、
ヒューイ・ルイスやプリンスとのことなどなど、
いちばん奥のリーダーの部屋で、長男の横に座って、
たくさん、たくさん、話をしてくれた。
語りかけるエミリオ、懸命に聴く長男。バンドのメンバーもときどきスッと会話に入ってきて、会話のジャムセッションが続く。
その光景があまりにも眩しくて、嬉しくて、父さん涙が出たよ。
![](https://assets.st-note.com/img/1724023589702-J8lEJ54RqN.jpg?width=1200)
エミリオ「セカンドステージ、みていく時間はある?」
僕「はい。でもチケット、ソールドアウトだった気が・・・」
エミリオ「OK、オレにまかせろ」
ツアーマネージャーに、「この2人をゲストにしてくれ」と一言告げたエミリオ。
そのあまりの展開の早さに、僕らの口からは”Thank U Very much"しか出てこなかった。
半世紀以上、ステージに立ち続けてきたレジェンドにして、多くの人材を育て、輩出してきたリーダー、エミリオ。
ソウルとパワーのブレンドが、凄まじくカッコいい。
僕にとって、バックステージは学び舎だ。
そこには「舞台に立つ人たちのリアル」がある。
態度、気遣い、空気、哲学、雰囲気、そういったものは人からしか学べない。
そして人を知ると、世界が拡がる。その人の世界に入るから。
![](https://assets.st-note.com/img/1724023671135-oQssYXYY1m.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1724023589746-rE3lcp6SdD.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1724024532603-51dhgacVFv.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1724025816561-jucIXxBUfF.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1724209579389-qh1CQMIYnJ.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1724025839379-c7yOrxLY6J.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1724210716124-iwIA8onDYc.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1724199236982-oSOPRGZsY9.jpg?width=1200)
いつもながら夢のような時間は一瞬で過ぎ去り、僕らは後ろ髪を引かれながらも会場を後にした。
帰宅後、今度は長男が僕に向かって語りかけてくれた。
「今日はありがとう。タワー・オブ・パワーのみんなすごい人たちなのに、とても優しかった。世界って広いんだね、僕が知っているよりも、もっともっと広いんだね」
長男の眼の奥がキラッと輝いた気がした。
ときどき、こんなことを思う。
顔と名前を出している僕の子どもであることが、もしかしたらマイナスなんじゃないか。「ふつうである」を阻害してしまってないか。
僕はそうしたくてやっている。でも、子どもたちには子どもたちの道がある。その葛藤は無くなることはないだろう。
だけど、「ああ、今日という日があってよかった」と心から思える1日になった。
![](https://assets.st-note.com/img/1724026877485-hISCTQo7nj.jpg?width=1200)
エミリオのスマホの画面にはこう書かれていた。
「それはひとつのヴィジョンから始まった」
僕が子どもたちにできること。
それは「世界」をみせてやること。そして、やってみせること。
僕のためじゃなく、次の時代を生きる彼らのヴィジョンのために。
世界を感じさせてくれたタワー・オブ・パワーと、
僕と一緒に飛び込んでくれた長男に伝えたい。
"I Like Your Style"(キミのスタイルが好きだ)
ここまで、長文をお読みくださりありがとうございました!
追伸:バックステージで学んだ大切なことをカタチにしました。