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バックステージという学び舎

父として、僕が子どもたちにできることは何だろう?

究極的には2つしかないんじゃないか、と僕は考えている。

ひとつは、「やってみせる」。
もうひとつは、「みせてやる」。

なんか言葉遊びみたいだけど。これ、かなり本気でそう思ってる。なぜなら僕の父、母も、そうしてくれたから。

1990年、夏。17歳の時、アメリカでカラテの試合をしたときのこと。

両親は応援に来てくれた。2週間、日本語の通じない異国での滞在。時間も、コストも相当かかっただろうに、両親は「やってみせて」くれた。そして僕にアメリカを「みせて」くれた。

それまでの僕にとって、アメリカは画面の中だった。レコードのジャケットの中だった。でもこの時、アメリカの中に僕が入った。僕は2週間、広大なアメリカの景色の一部になった。

全く違う世界がある。今の環境だけが全てじゃない。

10代の僕にとって、その後を大きく影響する経験をさせてもらった。

さぁ、こんどは僕の番だ。

「やってみせる/みせてやる」を実行しなければ。

そんな意識で、僕は16歳になったばかりの長男と一緒にビルボードライヴTOKYOに行った。

1970年にデビューして以来、半世紀以上活動しているソウル/ファンクバンド、タワー・オブ・パワーの来日公演だ。

シーラEやプリンスと仕事をしていたサウンドエンジニアの友人、ACEがタワー・オブ・パワーに合流したころ、ACEがバンドに僕を紹介してくれて。

2007年頃から来日時に彼らのサポートを行うようになった。

ACE

ちなみに仕事面において超厳しい(そして滅多に褒めない)プリンスはACEのサウンドに”Perfect”と言ったことがある。そのあたりの話も、またの機会に。

ライヴは言うまでもなく圧巻だった。

打ち込み、サンプリングはもちろん、コンピューターの音も一切無し。
全ての音が生演奏、これぞリアル・ミュージック。

「タワーは演奏のレベルが高いから、安心して(サウンドエンジニアの)仕事ができる」

かつてACEがこう言ってたのを想い出した。

 ファーストステージが終わると、タワー・オブ・パワーのメンバーは僕らをバックステージに招待してくれた。

 いつもどおりメンバーの体調を聞き、いつもどおり処置やアドバイスをし、いつもどおり、ほんのちょっと医学的なサポートさせてもらった。

 格闘技医学としてやってきた「ハードワーカーのための医学」が、いつも聴いてるミュージシャンたちの役に立つ。少しでも恩返しできることが嬉しい。

"Thank U, Dr.Takki."

いつもどおり、みんなが感謝の言葉を述べてくれる。
お礼を言いたいのは僕の方だよ、という気持ちを込めて、

"Thank U 4 your wonderful music"

いつもどおり、お返しする。

コロナ禍が明け、数年ぶりの再会。途中、バンドメンバーが引退したり(残念ながら他界したり)もあるけれど、それでも、いつもどおりのポジティヴな雰囲気に溢れている。

変わり続けても、変わらない。ホンモノのソウル。

あああ、なんという安心感。
久しぶりに僕はホームに帰ってきた気がした。

いつもと違うのは、ただひとつ。長男が一緒に来てくれたこと。

タワーのみんなは、長男の登場を歓迎してれた。

「さぁ、乾杯しよう。何を飲む?コーラでいいかい?」
「音楽好き?そいつはいいね!楽器やってる?」
「いくつになったの?よく来てくれたね!」

みんな積極的に長男に話しかけてくれる。
いつしか長男の表情から、緊張の色が消えていく。


リーダーのエミリオは、自らのスマホにある画像を僕らに見せながら、

息子さんやご家族のこと、
高校生のアマチュア時代にバットマンを演奏してたこと、
ジェームズ・ブラウンに初めて会った時のこと、
ヒューイ・ルイスやプリンスとのことなどなど、

いちばん奥のリーダーの部屋で、長男の横に座って、
たくさん、たくさん、話をしてくれた。

語りかけるエミリオ、懸命に聴く長男。バンドのメンバーもときどきスッと会話に入ってきて、会話のジャムセッションが続く。

その光景があまりにも眩しくて、嬉しくて、父さん涙が出たよ。

エミリオ「セカンドステージ、みていく時間はある?」

僕「はい。でもチケット、ソールドアウトだった気が・・・」

エミリオ「OK、オレにまかせろ」

ツアーマネージャーに、「この2人をゲストにしてくれ」と一言告げたエミリオ。

そのあまりの展開の早さに、僕らの口からは”Thank U Very much"しか出てこなかった。

半世紀以上、ステージに立ち続けてきたレジェンドにして、多くの人材を育て、輩出してきたリーダー、エミリオ。

ソウルとパワーのブレンドが、凄まじくカッコいい。

僕にとって、バックステージは学び舎だ。

そこには「舞台に立つ人たちのリアル」がある。
態度、気遣い、空気、哲学、雰囲気、そういったものは人からしか学べない。

そして人を知ると、世界が拡がる。その人の世界に入るから。



いつもながら夢のような時間は一瞬で過ぎ去り、僕らは後ろ髪を引かれながらも会場を後にした。

帰宅後、今度は長男が僕に向かって語りかけてくれた。

「今日はありがとう。タワー・オブ・パワーのみんなすごい人たちなのに、とても優しかった。世界って広いんだね、僕が知っているよりも、もっともっと広いんだね」

長男の眼の奥がキラッと輝いた気がした。


ときどき、こんなことを思う。

顔と名前を出している僕の子どもであることが、もしかしたらマイナスなんじゃないか。「ふつうである」を阻害してしまってないか。

僕はそうしたくてやっている。でも、子どもたちには子どもたちの道がある。その葛藤は無くなることはないだろう。

だけど、「ああ、今日という日があってよかった」と心から思える1日になった。

エミリオのスマホの画面にはこう書かれていた。

「それはひとつのヴィジョンから始まった」

僕が子どもたちにできること。

それは「世界」をみせてやること。そして、やってみせること。
僕のためじゃなく、次の時代を生きる彼らのヴィジョンのために。

世界を感じさせてくれたタワー・オブ・パワーと、
僕と一緒に飛び込んでくれた長男に伝えたい。

 "I Like Your Style"(キミのスタイルが好きだ)

ここまで、長文をお読みくださりありがとうございました!


追伸:バックステージで学んだ大切なことをカタチにしました。




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