夢と、お金と
どれほど才能があっても、どれほど情熱があっても、
夢を実現していく上で、もっと言えば
「何者でもないところから何者かになる過程」
において、経済的な問題は避けて通れない。
なぜならスポーツ、音楽、絵画、演技など、あらゆる身体表現の修得には相当な時間がかかるからだ。
趣味で楽しくやるレベルでも「数日で」とはいなかいわけだけど、
「人前でそれをやる」「形にして影響を及ぼす」「プロとしてやっていく」
レベルを目指すならば、それこそかなりの時間と労力と経費がかかることになる。
そんな経済的な問題において、すぐに想い出すことがある。
僕がいくつかの団体でリングドクターをやっていた頃のことだ。
ある団体のブッキングの人に、大阪で開催される大会にも来てほしいと頼まれた。僕もOKした。
東京から新幹線で新大阪まで往復、宿泊の費用、全額自腹。リングドクターとしての報酬もゼロだった。
それでも得るものがたくさんあったし、リングドクターとしての経験もつめたし、「これも勉強だ」と思っていたから、一切文句は言わなかった。
「いつか報われるといいけど、でも、ずっとこのままなのかな・・・」
とも思ったのも事実だ。
そんなリングドクター時代だったけど、ある時期から並行して選手のチームドクターもやるようになった。国内格闘技において、チームドクターをやり出したのは、おそらく僕が最初だと思う。
いくつかのチームを掛け持ちしていたが、その中のひとりに「PRIDEの番人」と呼ばれたゲーリー・グッドリッジがいた。
後先考えず、とにかく前に出て倒しにいくスタイルは、プロとして迫力があり、当時の人気選手だった。そんな彼が東京で試合をするとき、僕はある時期から必ず帯同していた。
あるとき、彼からメールがきた。
「大阪のK1に出るから、来てくれないか。家族もつれてきていいから」
という内容だった。いつもお世話になっている大好きなゲーリー。彼と出逢わなければ、できなかった経験ばかり。機会をくれ、道を拓いてくれたトッププロだ。
僕は、すぐに航空券とホテルを予約し、子供も一緒に大阪に向かった。
到着したのは、試合前日夕方。ホテルのゲーリーの部屋でチームミーティングがあった。ミーティングが終わってゲーリーが近づいて来た。
そしていきなり分厚い封筒を渡された。中には一万円札の束だ。
「Dr. Takki、東京から来てくれてありがとう。ここから交通費、ホテル代、かかった経費を全部抜いてくれ。家族の分も、全部だ」
僕はビックリしてフリーズしたが、なんとかそこから言葉を繋いだ。
「お金はいらないよ、ゲーリー。僕はあなたに呼ばれるだけで嬉しいから。だから大阪まできたんだよ。」
しかし、ゲーリーは僕の眼を真っ直ぐに見据えて、こう言った。
「You are the professional. (お前はプロフェッショナルだろ)」
そしてニッコリと微笑んでくれた。
もう涙が止まらなかった。彼の前で大泣きしてしまった。
お金を貰えることが嬉しかったんじゃない。彼が僕をプロとして認めてくれたこと、それがただひたすら嬉しかったのだ。
このように夢を追いかける段階で、僕はどちらの経験もしてきた。
だから経済的な問題は、その業界における慣習みたいなところも大いにあるのかなぁ、と思っている。
実際、お金の取り扱いは簡単ではない。
お金を渡すことで何かを与えられる場合もあれば、お金を渡さないことで何かを与えられる場合もある。機会を与えることで、後々お金につながることもある。お金が大事なこともあるし、お金以外が大事なこともある。
新しくスタートしたパフォーマンスDojo。
ここでは、本気でパフォーマンス追求する人たちを、わずかだけど経済的にもサポートできるようなシステムで進めていくことになりそうだ。
たとえばあるメンバー(俳優さん)は、僕と一緒にメディアに出演することで、メディアからの出演料を得ることができているし、顔と名前を広く知ってもらえている。
別のメンバーとは、今後面白きイベントを企画することになりそうだ。経済的なリターンはその時になると思うけど、それに向かっていくのも面白き旅ではないか。
経済ありきのDojoではないし、経済支援目的の人はお断りだけど。
一生懸命、場に貢献する人が報われるような、
夢に向かって継続しやすくなるような
そんな道場をつくっていきたい。
志ある仲間たちと共に。
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