葬り去りたかった。
過去の自分を葬り去る。
時にはそのくらいの思い切ったことをやらないと、次の場所に行けない気がする。
過去を大切にしすぎると、過去の延長で未来を考えてしまうから。それではステージの高さは変わらない。
書く、ということを生業にしてきた田中泰延さんは、自ら新しく出版社を立ち上げ、「これからの書のあるべき姿」を果敢に追い求める姿をみせてくれている。
演劇、そしてシェイクスピアを徹底追求してきた演出家・木村龍之介さんは、思い切って劇場を飛び出して、気を発し、セリフをぶつけ、身体を使えば、どこにでもシェイクスピアの魂が降臨することを証明しようとしている。
共に「書く」「演出する」という核心の部分は大切にしながらも、新しいレーンに飛びこむような思い切った挑戦をみせてくれる。
そんな大好きなおふたりとのトークライヴ@本屋B&B。
話の流れの中で、僕が新刊の中で『自分語りをしていない』ことを田中さんが話題にしてくださった。いろんな人の話が出てくるところが、本書の面白さにつながっていると分析しながら、
「なぜ自分語りをしなかったのか?」
について質問してくださった。そのおかげで、いろいろ考えることができた。
僕はきっと本書を記す過程で「自分語りをしたくなる自分」を葬り去りたかったんだと思う。若い頃はどうしてもそこに「自分」をねじ込みたくなるものだけど。今回は地球上で最も厄介な存在である「自分」からきちんと間合いを取ることができた気がする。
もちろんどんな人が書いたか、という意味での自己紹介的な「はじめに」は書く必要があったけれど・・・。
読者が本書を通じて、自分自身や自身のヒーローたちを発見してくれれば、そのほうがよっぽど意味がある。
本作は、心からそう思えた作品となった。