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危険な脳のダメージ3 頭を打ったら・・・ 


もし頭を打ったら、脳がダメージを受けたら、一体どのように過ごせばいいでしょうか?ここまでの復習を兼ねて、【医学的に正しい対応】をまとめてみます。

1 医療機関受診、画像検査、医師の診断

 重要なことですので何度も書きますが、「脳のダメージは外からはわからない」ですから、頭を打って脳のダメージが疑われる場合は、早急に医療機関を受診し、画像検査を受け、ドクターの診断を仰ぎましょう。

 いうまでもなく自己診断はダメです。また、このような時「周囲の人の経験則」ほど邪魔なものはありません。

「このくらいは大したことない」
「吐き気が無いから大丈夫」

などの個人的意見は、

何かあったときに責任とれますか?
何を根拠におっしゃっていますか?

などの問いとセットであるべきです。状況も条件も千差万別ですから。
たとえ近しい関係や上下関係があったとしても、客観的検査を伴わない非医師による勝手な診断(?)には絶対に流されないように気をつけましょう。生命予後に関わる可能性のある場合は特に客観的検査に基づいた医師による診断が重要です。

2 ひとりにならない、ひとりにしない

 少なくとも24時間から48時間はひとりにしないよう十分に経過を観察し、何か変化があればまたすぐに病院に駆け込める態勢でいてください。

「タイムラグ」には「周囲が経過をみる」で対抗するしかありません。私も医師として、「頭を打って2週間後に意識を失った症例」を経験したことがあります。ですから「教科書からはみ出るケース」は十分に想定しておきたいところです。

 

3 「意識の変容」に注意

 意識の変容、という言葉をご存じでしょうか?
簡単に表すならば脳の変化により「いつもと様子が違う」状態のことです。

「いつもはよく話すのに口数がとても少ない」とか、「いつもよりもテンションが高い」とか、「行動がちぐはぐである」とか、そういった変化のことで、それらの判断は「いつも」を知る近い距離の人にしかわかりません。

 ですから意識消失は当然のこととして、「意識の変容」がみられた場合、その他、それまでになかった新しい変化が表れた場合は、すぐに病院受診し、画像検査は最低限行ってもらいましょう。

  試合後やアクシデントの後は「心理的な落ち込み」も重なりますから、見極めが極めて困難となります。

「負けてツラいんだろうな」
「試合続行できなくて無念なんだろう」

スポーツや勝負の文脈では、ついそのように考えてしまいがちですが・・・そもそも見極めは専門家でも無理です。ですから「見極めようとせず最悪を疑う」のが命を守る場合の基準となる考え方になります。

4 運転しない

 車の運転は当然禁止です。スポーツでは試合あるいは合宿などの遠征に車で行くことがよくありますが、「運転する人」=「試合出場者」であってはいけません。脳の機能やダメージを知れば(脳のダメージという流れの中で読めば)、それらは当然のことですが・・・。

  私自身、これに関しては苦い経験があります。大学時代に道場単位で高知から徳島まで遠征した時のことです。私が車を出すことになり、同期や後輩を3人乗せで、高速道路を含めて片道3時間の道を運転しました。その時、私もカラテ選手としてトーナメントに出場、準決勝でボディに膝蹴りを喰らいダウンし、敗退。帰りも、高速道路で3時間かけて運転して帰りました。

今思い出しても、これは軽率だったと反省しています。

たまたまボディでのKOでしたから意識は清明だったものの(ボディはボディで別のリスクがありますが)、これが首から上への攻撃だったら・・・。また相手選手がボディへの膝蹴りで攻撃を「ストップ」せず、その次の一撃を顔面に喰らっていたら・・・。

私の脳はダメージを免れることはできなかったはずです。

その脳で運転を強行し、もし事故が起きていたら、被害の範囲は私ひとりを軽々とこえたことでしょう。当時は現役選手でしたから「勝つつもり」で準備してましたから、私自身「ダメージを負った際の想定」ができていませんでした。また「出場選手は運転しないように」というルールもありませんでした。

プロ選手でも自分で車を運転して試合会場入りしたり、合宿などで車を運転するケースがみられます。道場・ジム・チーム単位で「出場者≠運転者」を徹底する。衝撃を受けた脳では運転しない。これらは大切だと身に染みています。

5 アルコール禁

試合後に開催される祝勝会。
それまでの不断の努力が実った後の、勝利の美酒は格別でしょう。
しかし脳が揺れた後であればやはりアルコールは危険です。

なぜなら

(A)酒に酔った酩酊状態
(B)頭蓋内出血での意識の変容

これらの見た目がよく似ているためです。(A)が(B)をマスクしてしまう危険性、そしてアルコール→アセトアルデヒドによる血管拡張作用が、出血を促進する危険性があるからです。

 古き体育会系、武道系の縦社会では「飲酒を断れない空気」もあるでしょう。またプロ興行などでは招聘元とのお付き合い等もあるかとは思いますが、それでもやはり「試合後の飲酒は危険」と言わざるを得ません。

 私はあるプロレスラーの方から「試合後の接待での飲み会がきつい」と吐露されたことがあります。ハードな練習、移動しながらの連戦、それだけでも疲労の蓄積はハンパないわけですが、これが試合となれば、打撃のみならず、投げ技、ジャンプ、場外乱闘など、時には1対複数で、頭部をガンガン揺らすことになります。その後のお酒は・・・やはり安全とは言えないですよね。

「試合後のアルコール接待は選手生命を縮める」

この認識が広く共有されることを望みます。


ここまで、頭を打った後の過ごし方について、最低限共有されてほしい内容としての解説を試みました。(専門的になり過ぎないよう配慮しています)

なぜ危険なのか?
なぜそうなるのか?

については、危険な脳のダメージ1,2を合わせて理解することでより深まると思いますので、お目通しいただけたら幸いです。


脳は命に直結します。あらゆる挑戦は「命あって」のことですから、脳へのダメージに対する認識がアップデートされ、スポーツやパフォーマンスにおける「ライフファースト」が実現しますように。

スポーツ安全指導推進機構代表 医師 二重作拓也




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