文法の意味・機能を活かす活動
英語科教育法IIで学生が行った模擬授業の振り返り。
今回は「受動態」に焦点を当てた授業。
その中で行われた活動について、受動態という文法項目の意味的・機能的特徴との相性という観点から振り返りたい。
生徒は先生から配られた英文(1文)を読んで、それを絵にする。
英文は、A soccer ball was kicked by Keisuke Honda.や、Chihiro was bitten by a dog.といった受動態の文。
絵を描いた後は、他の生徒が描いた絵を見て元の英文が何か考える。
さて、上に貼ったものが"A soccer ball was kicked by Keisuke Honda."の文から生徒が描いた絵である。他の生徒はこの絵から例文を復元するのだが、果たして「受動態が使われている」という前提無しに復元可能だろうか。
前提なしで素直に考えるなら、Keisuke Honda is kicking a soccer ball.となりそうだ。
元の例文を絵に落とし込みきれていないポイントとして以下の2点が挙げられる。
・ボールが主語になるような焦点の当てられ方をしていない
・過去の出来事として描かれていない
ここには一枚の絵で上の例文を表すというタスクの限界が顕在化している。
つまり、(相当な絵心がないと)1枚の絵の中では焦点を明示することができない。特に動作主である本田圭佑氏も描かれていながら、その動作の客体であるボールに焦点を当てさせる描き方は、少なくとも美術「2」の私には構図すら浮かばない。
模擬授業後の振り返りでは、(対話型模擬授業検討会とは別に)受動態という文法を使う動機となる「視点の移動」、つまり話者の焦点が本来の動作主ではなく動作の客体に向くというのは、文脈があって初めて起こり得ることなのだから、絵にするのであれば「4コマ目に与えられた例文が当てはまるように4コマ漫画を描く」といったような活動の方が向いていた、という話をしてまとめた。
蛇足だが、4コマ漫画(等のストーリーを描く活動)にすることは視点の移動だけでなく、「時間の経過」を表す上でも効果的だ。今回の授業での例文はどちらも過去形だったが、絵の中に元の文が過去形であったことを示唆するような要素はなかった。(絵の中にそういう仕掛けがあったとしたら、現在完了形で言いたくなるかもしれない。)
一枚の絵の中では(出来事を時系列に沿って描く屏風絵な描き方をしない限り)時間の経過を表すことはできない。そして、絵を説明する文の時制はその絵にどういう風に言及するかによって変わるだろう。
絵よりも写真の方が分かりやすい気がするので写真の例を挙げる。友達とスマホのカメラロールをスクロールしながら思い出の写真を見合う時に、「このチヒロ、めっちゃ笑ってる〜!」(Chihiro is smiling so hard!)と写真を指差したり拡大したりしながら現在進行形で言及することもあれば、「この時、メイのテンション高かったよね」(This was a very exciting time for May, wasn't it?)と過去形で言及することもあるし、「あ、この写真、ハルカたちが鬼ごっこしてた時だね」(Oh, this was taken when Haruka and her friends were playing tag.)みたいに過去進行形を使って言及することもできる。
このように、写真や絵そのものに時制(や相)が内在するのではなく、それにどういう文脈で言及するのかによって決まるのだ。
今回の模擬授業で示された例文は、過去時制であることで例文としては(単純現在時制よりは)自然と言えるが、それを絵で表現する術がなかった。
英文を理解する->絵で表現する->元の英文を復元する、という活動は割と汎用性の高そうな活動ではあるのだが、活動の中でどんな作品が出来上がりそうか、そしてその作品から本当に元の英文は復元され得るかといった、授業で起きそうなことの想定は、(どの学生にとっても)今後の大きな課題だ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?