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日常をベトナムに移してみる vol.6 サパ
ベトナム7日目。鳥や虫の鳴き声で目が覚めた。
昨日までいたハノイの喧騒とはうって変わり、サパの朝はとても爽やかだ。
宿から出て周囲を見渡すと、田舎の中の田舎といった景色が広がった。
昨日は真っ暗闇だったので分からなかったけど、こんなにも田舎だったのかと驚いた。それと同時に、なんか嬉しくなった。なんとも美しく、心が休まる。
おそらく昨日まで、ハノイでクラクションとクラブミュージックを絶えず聴き続けていたので、大自然について100倍感動できる体になっている。
よく考えると私の祖父の家はこんな感じだったので、見たことあるような景色ではあった。
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宿の1階でぼーっとしていると、昨夜いろいろと案内してくれた宿の年配女性がいた。雑談していると、彼女は宿のスタッフではなく、たまたま宿泊していたトレッキングガイドだという。
この宿は主にトレッキングをする人向けのものらしい。
何日かかけてトレッキングする人も多いので、その途中に宿泊し、翌朝またトレッキングを再開するのだそう。
私以外の宿泊客は、皆トレッキング中の方だった。大袈裟な例えになるが、私は富士山の山小屋にわざわざ普通に泊まりに来た人みたいになっていた。どうりで道中が険しかった。
ガイドさんが聞いてきた。
「今日はなにするの?」
「あまり決めてないけど、昼くらいにはサパの街中に戻ろうと思ってます。」
「昨夜バイクで来てたけど、今日はどうやって行くの?」
そうそう、どうしようかと思っていたのだ。
できたらバイクで行きたいが、grabで予約してここまでバイクが迎えに来てくれるのか。歩くしか手段が無かったらきついなぁ。。
「そうなんですよ、どうしようかと思ってまして。」
「じゃ、知り合いのバイク呼んだあげるよ。」
お、なんともありがたい。。さっそくお願いさせていただくことにした。
ガイドさんが特に儲かる訳でもないのに、こうして親切にしてくれるのが本当に嬉しい。国籍は違えど、人間とはなんと素晴らしいことよと思った。
その後、宿泊客が5名ほどロビーに集まったところで朝食が始まった。円卓を囲んで、初めましての人同士で一緒に食べるスタイルだ。
何も言わずとも私には宿の方が作るパンケーキのようなものが提供された。
トーストと卵などが出てきた宿泊客もいた。
「あなたはトーストだね?トーストを注文したの?」
「いや注文してない。よく分からないけど、僕にはトーストがでてきた。」
「私はよく分からないけど卵がでてきた。」
朝食の提供システムについて、宿泊客だれしも理解できていなかった。
みんなで「謎システムだね。」とか話しながらムシャムシャ食べた。
朝食後、しばらく宿の犬と遊んだ。
旅行中の犬は狂犬病など心配だが、ここは飼い犬なのできっと大丈夫だろう。
昔飼っていた犬の、小さい頃に似ていた。
自然に囲まれて、ぼーっと犬と遊ぶ。
最高にリラックスできている。
結局こういう時間が、人間には大切なのではないか。
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そうこうしているとバイクが到着。
宿の人に支払いを済ませた。1,000円ほどだった。
大満足の宿泊であった。
バイクはグングン山道を登る。これがもし徒歩だったとしたらと考えるとゾッとする。
快晴で、湿度も低く、風を切り進む山道はさわやかで心地よい。
街中に到着。
え、明るい時間帯のサパって、こんな綺麗な街だったのか。
目の前には西洋風の建物が広がる。噴水や植栽も美しい。
言い過ぎかもしれないけど、天国とか桃源郷とか、そんな言葉で形容できそうな街並みだ。なんかファイナルファンタジーに出てきそう。
ベトナムのこんな山奥に、こんなきれいな街並みが広がっていることに感動した。
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サパはフランスが避暑地として開発したそうだ。何にもない山の中に、こんな楽園を作ってしまうとは。フランスの国力おそるべし。
街歩きが楽しくて仕方がなく、ずっとこのままブラブラしていたい。しかし、私には仕事が残っている。このことがずっと脳裏にあり、どこかサパに集中しきれていない気がしていた。
一旦カフェに入り作業することに。テラス席だったが、カラッとした気候とおしゃれな雰囲気でなんとも気分がよろしい。
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2時間ほど作業。すごい集中できて、ひとまずデザイン案が完成。日本に送った。
この瞬間、私の身体はフッと軽くなった。宙に浮いてしまいそうだ。
このデザイン案のフィードバックが返ってくるまでは、私が抱えているタスクは何もない。あぁ、私は自由だ。
街歩き再開しよう。湖畔を抜けて、市場に行ってみた。
実のところ私は東南アジアの市場があまり得意ではない。多くの場合、生肉や生魚などの臭いが強烈だからだ。ただサパの市場は生物が無かった。お菓子やお茶、衣服などばかりだ。臭いがなく快適である。
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市場を出ると、ナイトマーケットが始まっていた。たくさんのテントが連なり、食事やお土産を販売している。
その中の何箇所で、焼き栗を売っていた。サパを歩いていると栗を売っている店が多い。サパは栗が有名なのかな。見た目は天津甘栗のようだ。
試しに買って食べてみると、甘栗のような甘さはなく普通だった。焼いた栗といった感じだ。
食べながら歩いていると、ひとつ栗を落としてしまった。すると年配の男性がそれを拾って、当たり前のように食べていた。
あたりはすっかり暗くなってきた。夕食にしよう。
近くにあった食堂で、焼きそばのような麺とビールをいただく。店内のテレビではサッカーの試合が流れている。皆夢中になって見ていたので、私もなんとなくそれに混じって試合を眺めた。
そろそろ宿に向かおう。今晩はサパ中心地のドミトリーを予約している。
夜のサパは、いたるところで爆音のクラブミュージックが流れていた。ベトナムの夜はどこも賑やかなのだろうか。
昼間は分からなかったが、夜になると多くの建物がギラギラになっていた。昔のパチンコ屋を思い出した。
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宿に到着して、シャワーを浴び、さぁそろそろ寝ようかとしていた頃である。
腹が痛い。うー、辛い。何度かトイレと部屋を往復する。
何が原因だろうか、いろいろ食べたから分からない。
24時を過ぎた頃、まだ違和感が残るものの、ピークは超えた気がする。
そろそろ寝よう。なんか日本の自宅で何の心配もなく、ぐっすり眠れている日常ってとても尊いことなんだなとか考える。
ベトナムの山奥で、どうかこれ以上悪化しませんようにと、弱気な気分で眠りについた。
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