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隣に置くべき顧客

 アイデアをカタチにする合言葉の一つに「顧客を隣に置こう」というものがある。これは文字通り、アイデアの顧客候補をチームの隣に置き、彼らの声を聞きながら事業化に取り組むことで、成功確率が飛躍的に上がるというもの。

 といっても抽象度が高いので、早速具体例を準備しよう。今回の例は、新しい目覚まし薬「ミカンの力」という柑橘エキスを絞った目覚ましドリンク。この製品は運転中の眠気覚ましを狙ったもので、飲んだ瞬間に覚醒効果が期待されているもの。

 このアイデアをカタチにしようと思ったなら、運転中に眠気に困っているドライバーを見つけ、開発チームの隣に置くことが欠かせない、という風になる。さて、それはどうしてなのか。その理由を下記に三つのポイントで簡潔に説明してこう。

 顧客が隣にいることの価値の一つ目は、顧客がチームの隣にいることで「なぜ自分たちのサービスや製品にお金が払われるのか」を簡単に理解できるようになるから。お金を払う意志がある人、それはつまり課題感の強い人の視点を導入することで、アイデアが持つ価値が明確になり、アイデアの方向性や優先事項が明らかになっていく。

 例えば、ミカンの力に関するアイデアをドライバーにぶつけることで、彼らがどの場面で必要と感じるのかが判明していく。たとえば「高速道路を長時間走っている時の眠気」や「サービスエリアを逃した時の絶望感」が、彼らにとって財布の紐を開くに相応しい瞬間と理解できるようになっていく。

 顧客が隣にいることの価値の二つ目は、顧客がチームの隣にいることで、同様の課題やニーズを抱える顧客層が見えてくるから。この気付きを元にターゲット層を広げたり、ターゲットに沿ってアイデアの軌道修正も進みやすくなっていく。

 例えば、ミカンの力についてドライバーからフィードバックを貰うことで、深夜勤務が多い地方のドライバーが主要な顧客層になることが判明したりすることもある。また同じく他にもミカンの力に反応する方々との対話を、試験を控えた学生たちも新たな顧客層として見つかるかもしれない。

 顧客が隣にいることの価値の三つ目は、顧客がチームの隣にいることで、試作段階でのフィードバックを素早く受け取れ、改善のスピードが格段に上がっていくから。自分たちは恥を捨てきれず、時に完璧なものを目指しがち。けれども隣に顧客がいれば「なんであれ、まずは試してもらおう!」という姿勢が生まれ、効率が飛躍的に向上していく。

 例えば、ミカンエキス飲料の試作品を開発し、隣にいるドライバーから「飲みやすさ」や「効果の持続時間」や「デザイン」に関するコメントを即座にもらうことで、よりニーズに即したものに仕上がるように。

 顧客を隣に置くこと。それはアイデアをカタチにする合言葉の一つ。アイデアに対してお金が払われる理由(もしくは払われない理由)が判明し、自分たちが最初にアプローチすべき方々、そして今後に狙うべき方々も明らかになり、そしてまた改善発展のスピードは飛躍的に上昇していく。だからこそ、アイデアが机上の空論とならないよう、顧客候補をチームの隣へと引き連れてくることを心掛けていこう。

 最後に一つだけ注意点を。もし仮に顧客をチームの一員として組み込むと、この効果が薄れてしまうので推奨せず。客観的な声は、チームの枠外から得られるもの。中に入っては思い込みの加速で価値ある声は消えていく。だからこそ、顧客はあくまで「隣に」「チームのすぐそば」に置いておこう。これからアイデアをカタチにしたい皆様の一助となりますように。

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