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米国移住など、ここ5年くらいの振り返り

2020年に家族4人でサンフランシスコ・ベイエリアへ移住して、いつの間にかもう5年。渡米直後はパンデミックにぶち当たり色々なことが慌ただしく過ぎていったけれど、こちらの生活にもすっかり慣れ、年末にビザを更新し、しばらくは米国で暮らしていく予定でいる。

ただ、日本にいる同年代エンジニアの友人の話を聞くと「日本はどうも閉塞感があるので海外を目指すべきだろうか」という相談が増えているし、逆にこちらの日本人コミュニティでは「やっぱり日本に帰りたくなってきた」という声を耳にすることも多い。そんな背景もあって、ここらで自分自身の振り返りをしておこうと思った。2018年末に「次の10年どうしよう」なんて考えていたときと比べて、いまはどんなふうに感じているのか。ここ5年の出来事と、これからの5年を考えるうえで思うことを、つらつら綴ってみる。

6年前に考えていた次の10年

2018年の後半に二人目の子供が生まれて、2019年の年末年始に「10年後にどういう状態になってるといいのかな?」ということをぼんやりと考えていた。

当時のメモを見返すと、以下のようなことを考えていた。

  • 自分の家族の話

    • 家族で日々を楽しく暮らす。家族の思い出をたくさん作る。

    • 子供たちは色々な世界をみて視野を広げてほしい。

    • 自分がやると決めたことを一所懸命にやりきる人になってほしい。

  • 自分の仕事の話

    • 自分が興味ある仕事を居住地に縛られずにできる。

    • 自分が本当にやるべきと思うことをやれる十分な資産がある。

  • 世の中の話

    • 自分に未来を正確に予見する能力はないが、日本の人口動態だけは唯一決まってると予見できることなので、海外にも目を向ける。

当時は上場準備を控えた日本のとあるスタートアップに所属していたが、このようなことを考えると、他の選択肢も考えてみるべきかなと思い、以前から声をかけてもらっていた友人・知人に相談して話を聞かせてもらったり、外資系案件を中心にリクルーターに案件を紹介してもらったりした。

これも当時のメモを見返すと、以下のようなことを考えていた。

  • 日本国内の外資系テック企業は?

    • どうしても日本に製品販売するための仕事が中心。将来的にアリだけど、今ではない。競争力のある事業をつくる、良いプロダクトをつくる、そのための良い組織をつくる、といったことが自分の関心ごとで、このあたりができる環境とはいえない。海外も選択肢に考えた時、社内転籍にそこまでプラスにならない。

  • 日本国内のスタートアップは?

    • 米国あるいはグローバルで外貨を稼げる商売をしないとダメでは?国内に閉じたビジネスの話なら、現職とそこまで変わらないかなという感覚。

    • ソフトウェアエンジニアとしての自分が興味を持って情熱を捧げられる分野のことをやってる会社があまりない。大学では分散システムとかシステムソフトウェアとかやって、社会人としてはインフラエンジニアやデータエンジニア、プロダクトマネージャーとかやってきて、マーケティングとか FinTech と医療とか業界特化なテーマよりも、AWSのサービス作るとかそういうテクニカルなプロダクトに関わりたい。当時、あまり選択肢が思い浮かばなかった。

      • 今だと、さくらインターネットはこれに対しては完全にマッチしていて、もし日本に住んでいたら選択肢の最有力候補だったかもしれない (スタートアップではないけど)。なお、さくらインターネットには大変お世話になったので、個人的にはとても応援している会社です。

dotDataとの出会い、渡米、現在

そんなことをあれこれと考えてみて、自分が考えてることと最も整合性が取れてるなと思った選択肢が、現職のdotDataだった。

dotDataは、NECで研究最高位の主席研究員に最年少で抜擢された実績を持つ藤巻さんが、dotDataのコア技術である特徴量自動設計の研究をしていた仲間とシリコンバレーで創業した会社で、本社は米国にあるが、ちょうど日本オフィスを立ち上げるというタイミングだった。テクニカルなプロダクトを開発してグローバルにやっていこうという点に加えて、創業者以外も創業期に特有の尖ったメンバーが在籍していたのも魅力に思えた。例えば、その一人の Iaroslav は、飛び抜けて優秀なエンジニアだった。(なお、入社後、しばらくは一緒に働くことができたが、その後Netflix/Appleと転職して、現在はSQLMeshを開発してるTobiko Dataというスタートアップを創業して、Theory Venturesや、FivetranやMotherDuckなどデータツール企業の経営者から出資を受けてる。相変わらず凄い。)

dotDataは本社が米国とはいえ、日本支社に転職するわけで、海外移住できる確約があるわけでもなかったけど、たとえ日本支社で働いていたとしても楽しくやれそうだなということで転職することにした。当時の所属先では肩書きがVPoEでプロダクトマネジメントや組織マネジメントをしばらくやってる状況から、いきなりテックリードをやることになる感じだったが、まぁ、なんとかなるだろうと思っていて、実際になんとかなった (そういうポリバレント性は自分の長所の一つである。逆に器用貧乏とも言えるが)。

そうして、2019年の春にdotDataに転職したわけだけど、そのあとすぐ、2019年の秋に、CEOに呼ばれて、「米国側で坂本さん相当の人を採用しようとしてたけど、良い候補者がいないし、坂本さんが米国に来てくれないですかね?」と言われ、あれ?そんなすぐ?と思いつつ、妻に相談したら「来年のオリンピックと嵐の解散はどうしてくれるの?」というツッコミがあったものの、強く反対はしないということで、とんとん拍子にビザ取得を進めて、2019年の春に引っ越したばかりの五反田の友人家族に別れを告げ、2020年1月に渡米して、"Do the right thing, wait to get fired(*)" の精神で社内で自分が正しいと思うことをあれやこれやとやっていたら、2 年おきくらいに Director of Engineering、VP of Product Engineering, dotData Cloud (VP of Information Security なども兼務) という形で何やら肩書きがインフレして今に至るといった感じである。

※: 書籍 “Team Geek” に書かれている考え方。会社や社会にとって「正しい判断」を率先して実行する。解雇されなければ「正解だった」と証明され、解雇されても「不適切な職場から離脱できた」と捉える。

これまでの5年間の振り返り

dotDataという選択肢

dotDataへの転職は 75 点くらいの満足度。自分のLinkedInを見てもらうと、新卒から大体2年おきくらいに転職しているが、現職はもうすぐ6年というところで、最長在籍記録を更新中である。仕事は、日本のチームと仕事をすることも多く、大変なことがないわけじゃないが、いま会社で取り組んでいる技術やプロダクトは素直に面白いし、仕事していて楽しいのでついつい他のことより優先して仕事をしてしまうような状況である。

dotData Insight による分析のイメージ

昨年リリースした dotData Insight は、複雑な業務データの重要なデータインサイトを自動で発見し、それを生成AIの「世界知識」で解釈・補完することで、実用的なビジネス仮説を生み出すといった製品で、データの専門知識がなくても、業務部門が直感的にデータドリブンな意思決定ができるということで、お客様からも「めちゃくちゃ良い製品です。特に XXX は神機能です。」などというフィードバックをいただけることもある。

dotData の強みである特徴量自動生成

この分析の中核を支えるのが、dotData Feature Factory という Python ライブラリの製品で、PySpark のデータフレームと予測したい目的変数とER設定を入れると数十万-数百万のデータインサイトを効率的に探索して、機械学習においてもっとも大変な特徴量生成を自動化してくれる。Spark の Runtime があれば Databircks や Snowflake とか SageMaker などの主要なクラウドプラットフォームの上でシームレスに動くので、Python で自由自在にデータサイエンスできる会社はこの製品を利用してるケースが多い。特に時間的特徴量を扱えるのは非常に大きな強みの 1 つになっている。(時系列予測モデルとして広く使われるARIMAとProphetを比較し、特徴量設計を組み合わせた手法の優位性を解説した記事)。

一緒に働いてる同僚もみんな優秀かつ真面目かつ前向きなで頼りになる人ばかりである。スタートアップだと人の出入りも激しかったりするけど、自分が本格的にエンジニアリング組織のマネジメントに関わりはじめてから、自分の管轄チームで2年間の間に退職したのは試用期間中にどうしてもやっていける自信がありませんと去っていってしまったサポートエンジニアの方が一名のみで、チームがとても安定しているのも、満足度が高い理由の一つ。

会社としては、(当時の為替レートで)累計100億円ほどの資金調達をして、日本でも米国でも事業を伸ばすべく、複数製品の展開をやっていて、日本では 大塚商会様が「AI行き先案内」といった形で営業支援で成果をあげていたり、米国では Exter Finance という自動車向けローンの会社がリスク判定 で成果をあげていたり、他にも日米この有名エンプラ企業に使ってもらっていたら結構すごくないか?という会社に導入してもらったりしている。直近、Forbes の "日本からAIで挑むスタートアップ50選、その勝算" という特集でも紹介されていた。そういう感じで、これまで以上に持続的に収益を伸ばしていけそうな兆しを以前よりも強く感じているものの、まだまだ伸び代ですねという状態なので -25 点としておく。今年と来年はこれを -20 点、-10 点と減らしていきたい。

米国移住という選択肢 (仕事面)

仕事面で行くと、65 点くらいの満足度。

良い面として、単純にお金の話はある。お金が全てとは思わないがお金で解決できることは色々とあるので大事である。米国 、特にベイエリアはとりわけ物価が高いが、(ビックテックに見劣りするにせよ) 自分の出してる成果に対してそこそこ給与は貰えているのと、US は確定申告で夫婦合算申告というのができるため妻が労働をしていない我が家のケースでは日本に比べたら社会保障費を含めた税金負担がだいぶ軽い。給与を12倍にはできていないものの、可処分所得はまぁまぁあるので、総資産は日本にいた時よりは速いペースで増えている。しかし、米国の債務危機はそれなりに深刻な問題で、大英帝国やオランダ海上帝国など債務とインフレで破綻した国との相似もあり、覇権国家の地位を失い、ドルの価値が下がっていくなんてことが全くないとはいえないあたりで必ずしも安泰とは思えないし、資産家への道はまだまだ遠い。

悪い面として、米国のテック業界にまだまだ入り込めていないと感じる点がある。米国で働いたことがあるのはシリーズBのスタートアップ1社だけかつ、米国・ポーランド・日本の3拠点を持つ会社なので米国の社員数は限られているという状況。日本のスタートアップを中心としたテック業界では社外にも知り合いが多数いて入り込めてる感覚があるが、米国ではそういう感覚はまだない。日本にいた時は転職を通じて一緒に働いたことがあるというところから繋がりが増えるみたいなことがあったが、米国においてはまだ永住権を申請中というステータスなので転職できず、スタートラインにも立てていない状況。仮に永住権を取れたとしても、これまでの自分のキャリアをリクルーターが見ると完全にマネージャートラックに見えるので、自分の語学力でマネージャーとしてどこまで戦えるのかなぁとも思ったりする。現職は、技術と英語がそこそこできるのに加えて日本語が流暢なことで価値を発揮しやすいが、日本と関わりが少ない環境だと日本語が流暢なことは別にプラスにならないので。ただ、仮に永住権を持っていてもいますぐ転職したいというよりは、今の会社でちゃんと成果を出したいという思いの方が強く、この状況をどうにかするためにどこまでリソースを費やすか悩ましいが、もうちょっと出きるといいなと思う。

米国移住という選択肢 (生活面)

日本企業の駐在員やビックテックで社内転籍みたいな形で米国移住する場合は、会社が家やら車やら税理士やら色々と準備をしてくれるのだろうけど、当然、スタートアップにそんな福利厚生はない。当時、妻と3 才と 1 才の子供を連れて渡米して、1ヶ月くらい Hotel/AirBnB 暮らしをしながら、アパートの見学や保育園探し、社会保障番号の取得やら運転免許取得やらを、仕事と並行してやるのは振り返ってみるとなかなかにタフだったわけだけど、今となってはいい思い出である。

そのような生活オンボーディングに多大なコストを支払った結果として、仕事以外の面での生活に関連する満足度がどのくらいかというと、90 点と高得点。

自分はベイエリアの人口 3 万人くらいの街に 4 年ほど住んでいるが、狭くて濃いコミュニティの中で、子供の学校とか野球などの習い事で仲良くなった人が、日本人もそうでない人もたくさんいて、とにかく居心地が良い。子供たちも現地の公立学校に通っていて、友達もたくさんいて、毎日、楽しそうにしている。妻は日本人コミュニティにどっぷりだけど、楽しくやってくれていればそれで良しという感じ。

アメリカといったらスポーツ大国ということで、人工芝のグラウンドがそこら中にあり、子供も大人もスポーツをする環境に恵まれているのも自分にとっては嬉しい。水曜夜に35才以上のおじさんサッカーのリーグ戦がありそこで切磋琢磨しつつ、金曜は日本人同士でピックルボールをやり、土曜は街の草サッカーで水曜に向けた調整をするといった感じで、自分自身はスポーツをすることで心身健康にやれている。(余談として自宅の体重計の体内年齢は実年齢-5歳をキープしている)。

アメリカはハイウェイがほとんど無料で車とガソリンだけあればどこまでもいけるというのと、自宅からサンフランシスコ国際空港をはじめとする 3 つの空港に 20-40 分くらいでいけるというところで、国内外、家族で色々なところに気軽に旅行にいけるという点も満足度に起因している。去年だと、イギリスとかホワイトサンズ国立公園なんかはだいぶ良かった。

マイナス 10 点はどこから来ているかというと、この生活のために犠牲にしているもので、それは日本に住んでる家族や友人との物理的な距離である。最低でも年に 1 回は一時帰国するようにしているものの、日本に住んでいるのと比べたら会える機会は限られてしまう。

そのほか、アメリカ全体で見たら新しい大統領などのことだったり、銃の所持みたいな相容れない価値観の違いだったり、そういったマイナス要素・不安要素もたくさんある。ここ数日でも不法移民対策とかカナダとメキシコと中国への関税とか、どうなることやらという。

このさきの5年間の展望

仕事面も生活面も総じて満足度は高いけど、それを踏まえて、今後、どうしていくのだろうというところも考えてみる。

仕事面

仕事面で、一つは、いまの所属先のdotDataを大成功させたいということである。もちろん個人として成功したいというのもあるけど、それなりの立場になったいま、自分のチームのメンバーはもちろん、会社のステークホルダーのみなが幸せになるように頑張らねばというところ。これが立場が人を成長させるという奴なのだろうか?一方で、せっかく米国にいるし、どこかで違う挑戦をしてみたいなという気持ちもある。それは米国内で転職することなのか、またまたその他のことなのか、今はまだ永住権もなく、具体化するタイミングでもないけど、何かの節目にはまた考えるべきことだろう。

生活面

生活面で、ずっと米国に住み続けるのかは重要なテーマである。生活や教育でいうと、米国も日本も良いとこもあれば悪いとこもあり、唯一の正解というのはないので、状況に応じてどちらかあるいはそれ以外の選択肢も取れるようにしておくというだけかなと。そうなると、まず永住権を取ったとして、その先で日本国籍を捨てて市民権を取るのか否か、その時までに二重国籍を認めて欲しいけど、絶対そうなってなさそうだよなぁとか、そういう次の悩みが出てきそう。ただ、来年はFIFAワールドカップが北米三カ国の共同開催で、人生で2回も居住国でワールドカップをやってくれるなんて恵まれた機会なので、少なくともワールドカップが終わるまでは米国にいたいなと思っている。

その先の国際的穏健派としての貢献

この国際的穏健派エリートたちが、日本の将来に大きな影響を与えると思っている。彼らは日本の良さを海外にアピールし、また日本の抱える問題点を、建設的なかたちで指摘することができるからだ。

国際的穏健派の誕生: https://j.ktamura.com/archives/2091

そういう中で最後はどこに行き着くのだろうか?一つの指針はこの記事で言うところの国際的穏健派なのかなと。自分のことを、"エリート"というつもりは全くないのだけど、国際的穏健派でいたいなとは思っていて、最終的に、どこで暮らすにせよ、仮に日本国籍を失うことがあるにせよ、海外に身を置いている経験を、なにか少しでも日本にプラスを返せるような働き方を模索していきたいと思っている。


おわりに

そんなわけで、ここ5年ほどを振り返りつつ、今考えていることを書いてみた。冒頭で書いたようなことをぼんやりと気にしてる人にとっては何かを考えるキッカケになったらなとか、自分と似たようなことを考えている人がいたらこれをキッカケにそういうネタで雑談できたらなとか、そんなことをモチベーションにだらだらと書いていたら、だいぶ長い文章になってしまった。

そういうわけで、これをキッカケになにか新しいことに繋げられたらと思うので、もしこの文章を読んで、もうちょっと話をしてみたい、こういうことをもっと詳しく聞いてみたい、そういうことがあれば、気軽に https://x.com/takus_ja あるいは https://bsky.app/profile/takus.me などで、連絡をいただければと。また、dotData Japan のポジションは開発もビジネスも含めて積極採用中なので、もしちょっとでも興味があるという方がいれば、カジュアル面談も気軽にお申し込みをどうぞ。

それではまた。


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