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23-24AWメンズウェア展示会リポート④

ファッションは20年周期で繰り返す説は正しい

四半世紀もメンズファッションに関わってきたので、話題のトレンドには既視感を抱くことが少なくない。90年代に巻き起こったスニーカーブームとそれに伴うストリートスタイルの復活、さらにはZ世代を中心とするY2Kブームもそう。もちろん、当時とそっくりそのまま同じという訳ではないし、単なるリバイバルと切り捨てるつもりもないが、やっぱり20年周期で大きくファッションが様変わりするという定説通りなのだ。

でも、あれほど大騒ぎしていたスニーカーも今年になってからは急速に沈静化しつつあり、ヒップホップ由来のストリートスタイルもありふれたものになってしまった。流行りが分かりやすいものであればあるほど、陳腐化するのも早い。多くのスニーカーフリークたちが「NIKEのダンクが流行るとブームは終わる」と予想していたが、見事にそうなった。

ファッションを担う中心的年齢層はいつの時代も20代から30代だし、次なるトレンドもこの世代から生まれてくることには間違いない。今年でもう50歳になる自分は、もちろんその中心にはいないし、自分自身のスタイルがほぼ出来上がっているので、良くも悪くも中心からは距離がある。その反面、身を持って色々なトレンドを通過してきたからこそ、ファッション全般を俯瞰して見ることができる(はずだ)と思っている。

展示会を色々と見て感じたことのまとめ

23-24の秋冬展示会を振り返るって、注目すべき変化を挙げるとこんな感じだろうか。もちろんいくつかのトピックスは2〜3シーズン前から動きが見られたけど、それが一般的なファッション好きにまで伝わるという視点で要約してみる。

アイテム
・色落ちデニム
・ブーツカットデニム、セミフレアのスラックス
・フード無しモッズパーカ
・英国的なチェックのジャケットとコート
・チャイナボタンのジャケットやシャツ

スタイル
・アウトドア系の進化と定着
・ビッグシルエットが終息に近付く
・ニューベーシック勢が飽和

ムード
・着飾る男服という方向性
・平坦な作りから構築的な作りへ
・ブラックの復活、差し色はパープル

分かりやすいカルチャーからの引用は沈静化へ

ざっとこんな感じだろうか。2010年代はずっとヒップホップがユースカルチャーを牽引してきたし、今年はファレル・ウィリアムスがルイ・ヴィトンのディレクターになり、デビューコレクションを成功させたばかりだ。この傾向はまだしばらく続くと思うけれど、全体的なムードとしてはストリート=ヒップホップという図式はやや後退していると思う。なぜなら、もはやヒップホップカルチャーが世界的に普及し、ハイファッション界も飲み込んでしまったからだ。
 
とは言え、いきなりエディ・スリマンのような全身細身のロックスタイルに向かうのかと言われると、そう単純でもない。多くの日本の新興ブランドを見ていると、ディオール・オムやナンバーナインへの憧れのようなものも感じることはあるけれど、ビッグシルエットを通過しているので、当時の単なるリバイバルとは明らかに違う。ちゃんと新しいバランスを提案しているし、使い古された音楽カルチャーからの露骨な引用はあえて避けていると思う。分かりやすいのは飽きられるのも早いからだ。
 
街中の至るところでジョイ・ディヴィジョンのアートワークを見かけるようになった今、音楽カルチャーからの引用はもはや陳腐になろうとしている。当のバンドを聞いたこともない人が、単に流行っているからという理由で着てしまうのは相当カッコ悪い。外人が意味不明な漢字Tシャツを着ているのと同じだ。肝心の音楽の分野で新しいムーブメントが起こっていない以上、どうしても過去の繰り返しになってしまうし、ユニクロやH&Mもこの手法を取り入れているのはうんざりしてしまう。

どうせ買うなら機能が実感できるアウターがいい

そんな訳で、新しい服を買う分かりやすい動機は、アウトドアの機能性をファッションに落とし込んだハイスペックな服だろう。やはり急な雨風や温度変化に対応するハイスペックなアウターは、アウトドアよりもむしろ都市生活でこそ役に立つと多くの人が気づいたから。ただし、普通のオジサンまでもがザ・ノースフェイスとかパタゴニアを着るようになってしまったので、差別化を図るならばやはりしっかりデザインされたハイスペックアウターの方がいい。

この分野を牽引し続けるホワイト マウンテニアリングは別格として、アンドワンダー、F/CE、ミーンズワイル、ディーベックなどがしのぎを削っている。さらに、以前から機能性素材を多用しているNハリウッドやノンネイティブといった重鎮もいるので、かなりの選択肢があり、競争は激化している。従来のアウトドアブランドとは違って、街中でも違和感なくオシャレに着られて、悪天候の日にその利便性を体験してしまうと、普通の服には戻れなくなってしまう。キャンプやフィッシングといったアウトドアアクティビティそのものの人気は落ち着きつつあるものの、デザインされたハイスペック服の人気は地味に続くだろう。

ニューベーシックという日本人的な服作りが飽和

雑誌のポパイが提案するシティーボーイ御用達ブランドとして、5年ほど前からブレイクしたコモリを筆頭に、オーラリー、ヨーク、シュタイン、グラフペーパー、ブランワイエムなどが追随。至って普通のアイテムのシルエットを今っぽくして、素材にこだわって作り込んだ新しい日常服は現在ピークを迎えたように思う。外出する機会が増えた今、もっと主張があり、エッジの効いたデザインが求められるようになってきたと感じるからだ。

もちろん、センスのいい人からは一定の支持を取り付けるだろうけれど、元々がベーシックウェアなので差別化が難しく、ともすればのっぺりと無表情にも見えてしまうからだ。多くの廉価ブランドがこうしたブランドをコピーしているので、あと2〜3年もすればすっかり古臭く見えてしまうはずだ。その点では、テーラリングに長けたレインメーカー、オーバーコート、イレニサなどは、モードなエッセンスを付け加えるのが上手なので、この先もしっかりファンを掴んで生き残っていくと思う。

着飾る男服という新しい方向性と可能性

音楽カルチャーから引用したストリートスタイル、もはや当たり前となったアウトドア系のハイスペック服、似たようなブランドが多出して飽和状態を迎えたニューベーシック。それでは新しい方向性は無いかといえば、そうでもない。今最も勢いに乗るベッドフォードを筆頭に、エムエーエスユー、エルコンダクターエイチなどの新鋭が続く。さらには、ベテランのジュンヤ マン、ソロイスト、ジョン ローレンス サリバンがいて、パリで活躍するダブレットやキディルも存在感を高めている。

着飾ることがモードだという訳ではなく、そこにはジェンダレスかつシーズンレスな提案、意外性のあるレイヤリング、コンセプチュアルなグラフィックといった様々な手法が含まれている。現在の音楽シーンがロックもヒップホップもエレクトロも巻き込んでオルタナティブ化、エモ化しているように、ひとつの傾向だけでカテゴライズできない服が今の気分なのだと思う。そして、日本人デザイナーにはミックス感覚が長けた人が多いし、海外のデザイナーよりも優れていると思う。もはや値段とクオリティの釣り合いも取れていなくて、デザイン的にも打ち出すメッセージにも面白みに欠ける海外ブランドよりも、ずっと日本ブランドの方がクリエイティブでハイクオリティだと思う。


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