ブランド体系の整理とは目に見えない資源の活用と蓄積を考えること

自社のブランド体系を見直す企業が増えている。企業規模がまだ大きくない場合、「企業のブランドの関係性がどうあるべきか」よりも「主要なコアブランドが市場にどう受け入れられるか」が重要な問いとなり、戦略を考えたりアクションを実行するケースが多いように思う。つまり、単一のブランドの短期的成長をシンプルに追求し、サービス名、ブランド名、デザイン等について、自社の他ブランドとの影響を考慮したマネジメントをしない。単一のブランド視点では、その方が成長させやすく、ブランド数が少ない企業ではある程度理にかなっていると言える。しかし、複数の事業が成長したどこかのタイミングで、「分かりやすくブランドの整理したほうが良いのではないか」という声が、どこからか上がってくる。多くの事業・商品ブランドが意図なく無秩序に乱立してきたことに対して問題意識を持っており、「無駄があるのではないか」「もっと一つの方向性にまとまる必要があるのではないか」と考える。ただ、「なぜブランド体系を整理する必要があるのか」「どのような効果を狙うのか」「その目的は何か」など、事業成長の観点で解像度高く明確な目的を設定しようとすると、案外難しい。ブランド体系を整理する過程では、複数の調査を行うなど結構なパワーをかけることが多いのだが、考えるべきことが曖昧になってしまうと、結局途中で「これ必要なんだっけ?」とブランド体系を整理する意義が分からなくなってしまうこともある。今回は、ブランド体系を整理するとは、何を考えることなのか、ということを書いてみたい。

1. 一般的に言われるブランド体系の整理とは
2. 考えないといけない2つのこと
3. まとめ

1. 一般的に言われるブランド体系の整理とは
一般的に「ブランド体系の整理」というと、「グループブランド」「コーポレートブランド」「事業ブランド」「商品・サービスブランド」と最大でも4つのレイヤーのブランドを扱うことになり、下のレイヤーのブランドほどブランドの種類も多い。ブランド体系の整理では、単に一つのブランドの価値の最大化を考えるだけでなく、複数レイヤー、複数種類のブランドの集合体を「目に見えない企業の資源」とまずは認識し、それらの資源を最大限有効活用し企業全体としての価値(長期的な利益創出)を効率的に最大化するための方針を考える。つまり、企業が保持するブランドの関係性を整理し、各ブランドに対して、最適な資源(ヒトとカネ)配分を実現することが目的となる。ブランディングを勉強した方であれば知っているかと思うが、ブランド体系整理の大きな方針としては、「マスターブランド戦略」「個別ブランド戦略」「複合ブランド戦略」等があると言われている。

2. 考えないといけないこと
上のように書くと、考えるべきことがたくさんあるように見え、かつ抽象度が高いため難しく見えるが、下記の2つの問いに分けて考えるとよい。

①今あるブランド資産を今後どう活用するのか
②今後ブランド資産をどこに蓄積するのか(そして将来どう活用するか)

①今あるブランド資産を今後どう活用するのか
 ある商品ブランドをたくさん売ろうとしたときに、「ブランド資源」として活用できるのは、「グループブランド」「コーポレートブランド」「事業ブランド」「商品・サービスブランド」など実は複数ある。例えば、架空のスポーツメーカー「アディドス」があり、その中にサッカー事業「アディドス football」があり、その中に新サッカーシューズ商品「プレデターX」があるとする。「プレデターX」という新商品を販売して、できるだけ多く売るために「活用できるブランド資源」とは、コーポレートブランドとしての「アディドス」、事業ブランドとしての「アディドス football」、プロダクトブランドとしての「プレデターX」と、実は多いことをまず認識しないといけない。アディドスの場合、コーポレートブランドの価値が大きい(戦略的に大きくしている)ので、基本的には「アディドス プレデターX」などとして、アディドスのロゴが一番目立つ形で売り出す。それは、単に「プレデターX」として商品単体で売り出すよりも、アディドスのブランドを活用したほうが、「アディドスのサッカーシューズってかっこいいよね」とか「アディドスってスタイリッシュだよね」など、消費者の頭の中にある「アディドス」へのイメージが「プレデターX」の購買を後押ししてくれるからである。(この効果がまさにブランド価値を高める意義であるといえる。) 一方で、商品ブランドが強い場合は、上のようにコーポレートブランドをアピールするよりも、その商品自体のブランド力で勝負するだろう。たとえば、「柿ピー」「がりがり君」などは今でもすごく売れているが、それらのコーポレートブランドを知っている人は多くないはずである。ここからいえるのは、「ある商品ブランドを売るために、どのブランド資源を活用するべきか」という問いに絶対解はなく固有解しかないということである。理想的には、自社の状況(事業、組織)、業界特性、競合、消費者の商品カテゴリーに持つ認識や商品の選び方、等を総合的に考慮して考えたい。
 上では商品ブランドの視点から考えていたが、企業全体の視点から考えてみたい。単純化して考えると、企業の価値は全種類のブランドで出した利益の総和である。なので、究極的には企業全体としての価値(長期的な利益)が最大化するように、各ブランドについて、「他ブランドも含めてどのブランド資産をどう活用するべきか(して良いか)」が規定されているとよい。ただし、ブランド資産の活用は上に見た2つのケース以外にもバリエーションがたくさんあり、その活用の規定の方法や、具体度も実際にはなかなかの広がりがあるため、全ブランドですべて細かく規定するというよりも「絶対に守るべきブランド資産活用ルール」の大方針を考えて規定することが必要になってくる。大方針をうまく規定できないと次のような弊害が生まれる。
 視点を商品ブランドの視点に戻すと、当たり前だが担当者は自分のブランドを成長させるために最もよい戦略を常日ごろから考える。そこで、仮に「活用してよいブランド資源」「また、それをどう活用してよいか」が決まっておらず何でもありだとすると、フラットに一番成長できるブランド資源を活用をしようとするだろう。各ブランドがそれぞれ担当ブランドの最適をフラットに求めた結果として、例えば自社の他商品とカニバリが起こったり、自社のあらゆる商品ブランドが、一番認知度の高いコーポレートブランドを活用することで、コーポレートブランドのイメージが分散化され弱まるるなど「企業全体としては良くないこと」が起こる可能性は高い。したがって、企業価値を最大化するためには、「全体最適」の視点が持てる経営者が「各ブランドで絶対に守るべきブランド活用ルール」の大方針を決め、各ブランドはそれを制約条件として、ブランドの最大成長を目指していく、ということが大切であり、これがブランド体系を整理する上で大切になる視点の一つである。

②今後ブランド資産をどこに蓄積するのか(そして将来どう活用するか)
 上の例では、既にブランド資産が蓄積されている強いブランドを持つ企業のケースだったため、「どう活用するのか」が大切な視点だったが、多くの企業では、他のブランドに有効活用できるほど強いブランドがまだ育っていないケースの方も多い。今後の企業成長を加速するための手段として、ブランド体系を整理する、という狙いを持っている場合も多いだろう。そこで、「ブランド資産をどこに蓄積させるか」という視点が特に重要になる。つまり、今後将来的には①のように、ブランド資産の有効活用による企業成長を実現していくために「今どのブランドに価値を蓄積させるべきなのか」を考える。
 例えば、昔、柿ピーを売り出し始めた時代に遡り想像すると、実は企業としては選択肢は2つあった。

パターンA:「カメダ 柿ピー」と商品だけでなく企業も同じくらいアピールする道
パターンB:「柿ピー」と商品だけをアピールする道

 実際には亀田製菓はパターンBの道を選び、これまで多くの消費者が柿ピーを買って食べてきたことで「柿ピー」は強いブランドに育っている。一方で仮にパターンAを選んだ場合、ひとつのシナリオとしては「カメダ」にも同じくらいブランドとしての価値がたまっていたかもしれない。(もしくは、悪いシナリオでは、柿ピーが今ほど売れていないかもしれない・・・)
 それぞれのパターンにおいて、現時点でどのようなブランド資源の「有効活用」があり得るかを考えてみる。パターンBの場合は「柿ピー」としてのブランド価値が蓄積されているため、そのブランドを活用した効果的な打ち手のひとつは「違う味のラインナップ」を出すことである。例えば、「柿ピー 梅味」を出す。一方でパターンAの場合は、「柿ピー」だけでなく「カメダ」にもブランド価値が蓄積されているため、ブランド資源を活用した効果的な打ち手の幅はもう少し広がる。例えば「カメダ いかそうめん」「カメダ せんべい」なども、あり得るだろう。何が言いたいかというと、「どこにブランド価値を蓄積させるか」という選択によって、そのブランドが成長した後の、次の打ち手のオプション、成長の道筋・ポテンシャルも大きく変わる、ということである。上の例だけ見ると、一見するとパターンAの方が選択肢が広がっていて良さそうな気もするが、そう簡単な話ではない。パターンAのデメリットの一例を考えると、まず、そもそも今ほど売れていないかもしれなかったし、売れていたとしても、例えば「カメダ 柿ピー」が時代の推移とともに飽きられたとすると、それは「カメダ」にも古いイメージがついてしまうことになり、そのイメージを変えることは簡単ではない、というようなことも考えられる。一方で、パターンBのように「カメダ」にブランド価値を貯めていなければ「柿ピー」とは全く異なるイメージの新しい商品も出しやすくなるだろうし、「カメダ」のイメージにとらわれず新しいチャレンジができる。このほかにも、それぞれのパターンにおいて「デメリット」「メリット」がたくさんあり、それを明確に洗い出して認識したうえで、企業の方針としてどちらを重視するかを決めないといけない。

3. まとめ

上でみたように、ブランド体系を整理するときには、①今あるブランド資産を今後どう活用するのか、②今後ブランド資産をどこに蓄積するのか(そして将来どう活用するか)、の2つを考えていく必要があるのだが、特に②については、現在のブランドの状況を静的に切り出して分析すれば決まるものではない。将来的にどのブランド資源を活用して、どのような事業展開を実現していくかを構想した上で決定していく必要がある。つまり、将来時点での①の視点が必要になり、そこから逆算して②が決まるという側面がある。したがって、将来の企業成長のシナリオが仮にある程度明確に構想できているのであれば、あとはそのシナリオ実現に向けて、望ましいブランド体系のパターンをいくつか描いてみて、メリット・デメリットを総合的に検討して決定していけばよい。逆に、将来の企業成長のシナリオが明確には描かれていない場合はもう少し話が難しくなる(そしてだいたいこっち)。その場合は、「ブランド体系の整理」の前に、企業としてどのような方向性で成長するのか、企業戦略の検討が必要になる。なぜなら、上の②の視点からもわかるように、ここが曖昧化されていると、当然ブランド体系を整理する目的やその成果も曖昧化するためである。ここはかなりの注意ポイントであり、ブランド体系の整理と企業戦略は切り離せない。逆に言うと、「ブランド体系を整理する」ことを起点として、企業の成長戦略を明確にしていく力学を働かせることもできる。ブランド数が多く、規模が大きい企業にとっては「ブランド」を軸にして企業の成長戦略を考えていくのはひとつの方法として相性が良いため、近年ブランドを軸に経営をしようとする企業が増えている。
 

 企業戦略が明確でも不明確でも、企業の規模が大きく、ブランドのレイヤーや種類が多くなるほど、それらの活用と蓄積の方法も、組み合わせ数が多くなりすぎて、それらすべて検討していくのは現実的ではないので、よくやる方法としては「マスターブランド戦略」「個別ブランド戦略」「複合ブランド戦略」などの「大方針」をまずは決める。実際には、上記3つの大きな方針しかないわけではなく、その間にはグラデーションがあるため、その中から自社に最適な戦略を描く。実践的な進め方としては、まず上記3つの方針のうち1つを決めて、それをベースに、今回紹介した上のような2つの視点から企業の成長シナリオを想定しつつ、主要な論点についての議論を重ねることで「自社にとって最適なブランド体系」を決めていく。今回は以上だが、もう少し具体的にブランド体系を整理するステップをどこかで書いてみたい。

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