【総評】文化祭みたいに、過程が楽しくなる企画の考え方。「アウトドア×コーヒーのように、アウトドア×◯◯の商品を企んでください」──ヒャクマンボルト代表・サカイエヒタさん
失恋するとカット代が無料になる「失恋美容室」。5種のロケーションにマッチするアウトドア専用コーヒー豆「LOCATION COFFEE」。
記事や動画、WebサービスにSNSコンテンツ、D2C事業まで。アウトプットの形にとらわれることなく、時代の変化に適応しながらユニークな企画を生み出し続けているコンテンツ制作プロダクション・株式会社ヒャクマンボルト。
TAKURAMI SCHOOLでは代表のサカイエヒタさんを講師にお迎えし、
というお題を考えてもらいました。ヒャクマンボルトの事業のひとつ、「LOCATION COFFEE」にちなんだお題です。
今回は、サカイさんが学生から集まった回答を寸評。
さらに、後半のインタビューでは、サカイさんが企画する中で大切にする「アウトプットよりも、形にしていく過程を楽しく、ワクワクするものにしたい」という想いに迫りました。
まるで文化祭の準備のように、過程を楽しみながら企画するサカイさん。
「企画するって、ハードルが高いこと」というイメージを持っている人にほど届けたい、サカイさんの企画の進め方、その手前にあるアイデア発想のヒントも聞きました。
アウトドア×〇〇の回答と寸評
「シチュエーションというのは面白い切り口だと思います。シチュエーションまで細分化されるとおそらく150種類くらいの商品ができて、オペレーションが難しくなりますが、細分化されるほどオーダーメイドに近くなっていくという利点もあります。昔、365種類で365日対応のバースデーテディが流行しましたし、方向性としてはいいアイデアだと思います」(サカイさん)
「ヴィヴァルディは四季の素晴らしさを音楽にしていますが、そのパッケージされた音楽というものを再び自然の中に持っていくアイデアが、逆輸入のような考え方で面白いですね。もっと考えたいのは聴き方の部分。音楽って、個人的な楽しみ方からみんなで歌って踊ったりのような楽しみ方まで幅広いので、ハードの部分まで設計できればより良い企画になるかな。例えば、『四季に合わせたディナーで楽しめる演奏会』というふうに設計すれば、ヴィヴァルディがより引き立つかもしれないですよね」(サカイさん)
「『丈夫さ』を売りにするというのは、眼鏡をかけている人ならではのインサイト。こういった実直な方向性の企画で大切なのは、そのニーズに眼鏡をかけていない人も共感してくれるのかという視点。データを集めるのも一つの方向性ですが、『この眼鏡さえあればアウトドアでモテるんだ!』のような、課題解決の先にあるワクワクする展開を描けると共感性は高まりますよね」(サカイさん)
「多くの人が潜在的に抱いている『こういう状態になりたい』という状態へ持っていく企画ですね。つまり、人を演技に持っていかせるということ。それがコンテンツのひとつの力とも思います。『ちょっと野生に還る私』にするのはジビエだと思うので、いい発想ですね。携帯電話禁止、火を起こすことから自力でやる、みたいな縛りを設けると、よりアクターのスイッチが入る企画になると思います」(サカイさん)
アウトプットじゃなく過程にこだわる、サカイさんの企画論
──各回答に、「どうすればよりワクワクするか」の視点を中心に寸評いただいたように思います。お題記事でも、「僕にとっての企画とは、企画に参加する人が、課題解決すること自体を楽しく、ワクワクするものだと感じさせること」と語っていますが、なぜそう考えるのか教えてください。
仕事では、最終的には受け手である消費者が面白がってくれるかを大前提にしないといけないと思うのです。ただ僕自身は、そこに至るまでの過程の部分を楽しみたいんです。だから課題解決すること自体を、楽しく、ワクワクするものにしたい。
そのために結果やることが一手、二手と増えてでも、なるべく多くのプロの方々にプロジェクトに参加してもらうようにしていますし、参加した人みんなが、何かしら得できる形にパッケージ化することを心がけて企画しています。
──サカイさん自身もゴールよりも過程を楽しみたいし、プロジェクトに参加する人たちにもそうであってほしいと思って企画しているんですね。
そうですね。できあがったものよりも、つくっている途中がやっぱり面白いんですよ。文化祭みたいなものです。文化祭って、準備中が一番楽しいじゃないですか。
トラブルも起きるけど、最終的なゴールに向けていろんな癖のあるプロたちが、「わかったよ」なんて言いながら折り合いをつけていく過程を見れるのが、プランナーとしてはすごく楽しいんですよね。
──参加する人を増やしていって、みんなが得をする形を考えていったら、当初想定していた形とは違う企画になっていくことはないんですか?
全然あります。もともとの自分のやりたかったことが、そのままの形で残っていることは、ほぼないくらいです。でも、それでいいんです。いろんな寄り道の末にできあがったものが自分の思い描いていたものとはちょっと違っても、いいものとしてできあがっていれば、それこそがプランナー冥利に尽きることだから。
何かをつくりたい、生み出したいと考えるとき、TwitterやYouTube、TikTokなど、アウトプットの形から入るケースは少なくないと思っています。でもプラットフォームって、1年スパンで流行が変わっていくもの。アウトプットから入ると継続することがキツく感じたり、自分の武器が時代遅れに感じてしまうリスクがあると思っています。
だからこそ僕はアウトプットの形を決めてしまいたくないし、アウトプットの強度よりも、自分の中に企画の源泉を持つことを大切にしているんです。
世の中の面白いことを解明し、自分の企画に活かす
──サカイさんの考える「企画の源泉を持つ」とは、どういうことですか?
世の中の「面白いこと」の仕組みを、自分の頭の中にストックしておくこと、ですかね。そもそも僕はミーハーなんです。W杯で盛り上がるし、K-POPアイドルのライブも観に行くし。そこで感じられる面白さが、どういう瞬間に、何によって生まれているのかを観察して、その仕組みを理解することが好きなんです。
例えば、コロナ禍になってから行ったライブ会場でのこと。
声が出せない中、本来だったらサビを追っかけで歌うようなところで、誰かが手を叩いてコーラスしたんです。そうしたらアリーナ全体にザワッという空気が流れたあと、みんながどんどん手拍子に乗っかっていって。「あ、自分もできる!」と気づいて、その行為に参加していったんですよね。すごい光景でした。
手拍子というきっかけから会場にグルーブ感が生まれて、みんなが気持ち良くなる。この一連の流れから、「『両手』という多くの人が持ち合わせているものは一緒で、それに気づいた瞬間にみんなが乗っかっていくようなことが起きる」と解釈し、それをメモしたんです。
──サカイさんは、自分自身が企画の過程にこだわっているからこそ、世の中に溢れる面白いことに対しても気になるのはその仕組み、つまり、過程の部分を観察しているんだなと思いました。
そうやってストックした面白さにつながる要素をかけ合わせて、企画しています。ロケーションコーヒーのアイデアも、ある日「コーヒーはお湯の温度で味が変わるもの」と知ったとき、それがもともと頭の中にストックしてあったことと重なって生まれたものでした。
──頭の中にストックしてあったこととは?
テレビ番組で得た知識ですが、「山では標高の違いで沸点が変わる」ということ。そのふたつがつながって、「標高によって沸点が違うのであれば、コーヒーも標高によって味が変わるんじゃないか?」と思ったんです。コンビニの駐車場で、あっ!とひらめいて。
こういう瞬間は、学生さんからの回答でもあったんじゃないかと思います。ヴィヴァルディ≪四季≫鑑賞会やジビエのアイデアからは特に、お題に対して「見つけた!」ってひらめいた企画者の顔が浮かぶ。アイデアに対して見せ方などが具体化されているから。
僕の場合はそこから「環境の変化が味に変化をもたらすって、面白いんじゃないか」と感じて。そのまま商品のコンセプトになりました。
──サカイさんのお話は、「企画は難しいものではなく楽しいこと」という認識へ変えるものだと感じました。また、アウトプットまでの過程を楽しむためにも、自分の中にいろんな面白さの仕組みをストックしておきたいなとも。
自分自身が面白い!と感じたことが、のちに活かされていくことってたくさんあるので、流さずにストックしておいて損はないというのは、伝えたいことですね。とはいえ、面白いことを取りに行こうなんて思わなくてもいいんです。
自分自身が面白い、楽しいって思えることを知ろうとすることが一番大切で、それが企画の原動力になると思うから。インプットの方向性としては、まずは自分起点で考えてみる、というのがアドバイスになるのかな。
■プロフィール
サカイエヒタ
1981年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社ヒャクマンボルト代表取締役社長。Web制作会社、出版社、編集プロダクション、フリーライターを経て、2016年に株式会社ヒャクマンボルトを創業。ヒャクマンボルトでは、 記事、動画、Webサービス、SNSコンテンツ、D2C事業などを、企画・編集。宝酒造「おうちレモンサワーチャレンジ」、本田技研工業「THE POWER OF CRAFTS」、at home「北斎のお部屋探し九十三景」、亀田製菓「割りゲー 技のこだわり」などを企画。
取材・文:小山内彩希
取材・編集:くいしん